2020年1月17日金曜日

京都国立近代美術館「ニーノ・カルーソ」展を観て

「記憶と空間の造形」というサブタイトルの付いた、イタリア現代陶芸の巨匠、ニーノ・
カルーソの展覧会を観てきました。

折しも成人の日の当日で、この美術館の近くで式典が開かれていたため、きらびや
かな振袖姿の新成人の女性たちを多く見かけ、気分が華やぎました。

ニーノ・カルーソについては、あまり予備知識がなく、単純に器などの陶芸作品が
展示の中心だと思っていましたが、なるほど器類にも日本の陶芸家の作品とは一味
違う、造形や彩色、地肌の感触を示すユニークなものが見受けられたとはいえ、なん
といっても彼の代表的な作品は、陶製のブロック状の造形物を積み重ねて、古代の
壁面や柱、門などを思わせる建築的な形態を生み出す作品で、それらの作品は造形
のスケールにおいても、他に比類ないものであると、感じまあした。

美術館の1階の展示スペースは、一面の広い空間にこれらの建築的な作品が並べ
られていて、このスペースの作品は写真撮影も許可されているのですが、まるで古代
ギリシャ、ローマの地に迷い込んだような錯覚を覚えます。しかもその感触が、単純
に遺跡に足を踏み入れたように感じられるのではなく、まさに当時のその場所に遭遇
したかのように思われるのは、それらの作品の制作方法が深く関わっているようです。

3階のメインの展示会場の一角に、ニーノ・カルーソ本人へのインタビューを通して、
この陶芸家と作品を紹介する映像が上映されていて、その中に代表作である建築的
造形作品の制作工程が示されているのですが、それによると、発泡スチロールの
ブロックを外形はとどめたまま複雑な形に切り分けて、一つのピースを作り、それを
様々に重ねることによって作品の構想を生み出し、それからそれぞれのピースを
原型として陶製のブロックを焼き上げ、出来たブロックを構想通りに積み上げるという
制作方法が、とられています。

この方法によって生み出された作品には、作者のルーツである古代ギリシャ、ローマ
の記憶が塗りこめられていて、なおかつ未来社会的な合理的で無駄のない形態をも
示しているのでしょう。

この作品展を観て、過去と未来を往還するような、一種独特の感覚を味わうことが
出来ました。

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