2014年2月28日金曜日

連続テレビ小説「ごちそうさん」を見て

時間のゆるす時には、昼休みに「ごちそうさん」を見ています。
2月27日放送分に、ほのぼのとした余韻を残す、忘れられないシーンが
ありました。

戦時の防災訓練で、責任者の悠太郎が、住民に消火活動をせよと指導
すべきところ、逆に逃げろと叫んで、非国民の疑いで逮捕され、め以子が
悠太郎の元上司藤井と、藤井の幼馴染みの軍高官の人物に、悠太郎の
釈放を直訴しに行く場面。

結局二人の懸命の努力のかいあって、悠太郎は無事釈放されるのですが、
め以子の作ったカルメラ焼きを手土産に持参した藤井と、軍高官の人物との
真剣かつとぼけた会話、それが大変気に入った高官のリクエストで、め以子が
夜を徹してお菓子を作るエピソードに、厳しい時局を描きながら、誰かを直接に
揶揄するのとは違う、温もりのある笑いに誘われたからです。

近頃、弱いものを痛めつけたり、誰かの失敗を笑いものにする、攻撃的で
辛辣な笑いに、巷は満ち溢れているように感じます。

良質なユーモアの大切さについて、改めて考えさせられました。

2014年2月27日木曜日

岩城けい著「さよなら、オレンジ」を読んで

本屋大賞にもノミネートされている、話題の本です。

言語というものが人間にとって、どのような社会的意味を持つのか?
本書は、アフリカから難民としてオーストラリアに移住し、その地の
言語を学ぶことによって、生きる意味を見出して行く女性を主人公
として、人間にとって言語とは何かという命題を、見事に描き出して
いる小説です。

彼女は英語を習得するにつれて、子供との絆を深め、職場で自分の
立場を揺るぎないものとし、語学学校で掛け替えのない友人たちを
作ることが出来るようになります。

正に言語が、社会の中で彼女の立つ位置を明確にし、生きる希望と
自信を与えるのです。それこそが、社会性という部分における、言語の
効用に他ならないでしょう。

小説全体を見ても、物語と手紙文を交互に並べる体裁をとりながら、
最後に実は、入れ子式の構造であることを読者に気付かせる、心憎い
演出が、言語というものの機能を暗示しているのかもしれません。

2014年2月22日土曜日

映画「カンタ!ティモール」を観て

このドキュメンタリー映画は、私の関わっている龍池町つくり委員会で、
地域の啓発、親睦活動である龍池茶話会の一企画として上映され、
私も観ました。

映画には素人である本作品の監督が、初めて、独立間もない現地に
赴き、人びとと交流するうちに、この地と人びとをフィルムに記録し、
広く世界に伝えなければならないという使命感を感じ、撮影した、
文字通り初監督作品ということです。

上映後のディスカッションでは、特に、災厄の傷跡も生々しい、独立
して日も浅い東ティモールの人びとが、なぜ屈託なく歌い、踊り、
罪を憎んで人を憎まずというように、危害をを加えたインドネシア軍の
兵士を許す発言をするのか、さらにとりわけ、なぜ経済的には決して
恵まれない、現地の子供たちの笑顔が輝き、瞳が生き生きとして
いるのか、という声があがりました。

この映画の魅力の秘密は、現地に初めて入り、その地と人びとに
魅了された監督と同じ目線に立って、感じられることを感じることが
出来るということ、その感動をストレートに観客の心に注ぎ込む力が
あることだと、思います。

独立後も人びとの生活を脅かす、過酷な現実はさて置き、彼らが
束の間かもしれない、与えられた生を全身で享受する姿は、先進国と
いわれる国に暮らす私たちにとっても、全身を洗われるほどに神々しく、
また、惨禍を被った人びとに、一片の憐憫もなく讃嘆の念を抱く監督の
視線は、限りなく純粋に感じられました。


2014年2月18日火曜日

我が家の梅便り

心待ちにしていた庭の梅が、やっと咲き始めました。

もともと前に住んでいた家の庭にあった、ピンクの八重の枝垂れ梅
でしたが、手入れが悪かったのか枯れてしまいました。

ガッカリしていたら、どうやら接ぎ木がしてあったらしく、土台の幹から
芽吹き、新たな枝が伸びてきて、白い清楚な花が咲くようになった
のです。

すると愛着も生まれて、店の隣に引っ越して来るときに、この梅も
一緒に運び、植えかえました。以来、私の目をなぐさめてくれています。

今年は、蕾がほころび始めてから寒い日が続き、なかなか開花しません
でしたが、ようやく咲きました。寒さの中にも、何かほっとしたものを感じ
ます。

2014年2月16日日曜日

山口果林著「安部公房」とわたし」を読んで

「安部公房とわたし」は、女優、山口果林が20年間の沈黙を破り、
師、安部公房との秘された恋愛の顛末を記する、告白の書です。

本書を手に取ったのは、私にとっては「方舟さくら丸」に象徴される、
独自の理知的で普遍的なスケールの文学世界を生み出した、
安部公房の創作の秘密の一端を、知ることが出来るかも知れない
と、思ったからです。

安部は、演劇を通して山口果林と師弟関係を結び、それが恋愛に
発展していくのですが、二人の恋情に、彼が女優としての果林を
媒介として、自らの理想とする演劇世界を具現化しようとしたことが
深く関わっているのは、間違いないように思われます。

安部が演劇の創作で鍛えた、実験的な試みや、価値観の転換が、
彼の小説に、他にない深みと立体感を生み出したという意味に
おいては、確かにミューズとしての山口果林の存在は、作家
安部公房に創造の果実をもたらしたに違いありません。

昭和の残り香と共に、芸術に取り付かれたものの孤独と哀しみ
が見えて来ます。

2014年2月12日水曜日

イノダコーヒー三条店

私の気に入りのコーヒー店は、イノダコーヒー三条店です。

イノダコーヒーは、周知の通り京都の老舗コーヒー店で、市内にも
数店舗の店があります。

同店の代表的なブレンド銘柄は、アラビアの真珠。モカベースで
独特の酸味があり、ミルクと少量の砂糖を入れて賞味すると、
豊かな香りと贅沢な味わいが広がります。贅沢といっても、決して
華美ではなく、伝統に鍛えられたいぶし銀のような、内からにじみ
出てくるような味わいです。

さてそのイノダコーヒーの、どうして三条店が気に入っているかと
いうと、その店の内装が独特のつくりで、円形のカウンターが
コーヒーを立てる厨房を取り囲み、客は今しがたオーダーした
コーヒーが手元に提供されるまでを、つぶさに見ることが出来る
からです。店でいうコーヒー職人の手慣れた作業を見ていると、
出てきたコーヒーが更に美味しく感じられます。

店の雰囲気や、スタッフの丁寧な対応もあわせて、失われつつある
和魂洋才が、確かに生きているようで好ましく感じます。

2014年2月11日火曜日

芥川喜好著 「時の余白に」を読んで

心を落ち着かせたいと思って、取り置いておいた本書を読みました。

読売新聞社で長年美術記者を務めた著者が、自らの記者人生の
掉尾として取り組む、月1回のエッセイを本書編集までの時点で
まとめ、1冊にした本です。

著者が語るのは、それぞれの専門分野の中心から距離を置いて、
独自の創作活動を続ける芸術家についてであり、世の風潮や
流行に背を向けて、無欲におのが道を歩む人の活動について
です。

著者の視点は、超俗に肩入れするあまり、世間に対して少し
辛辣であるようにも見受けられますが、既存の価値観に
拘泥されない柔軟な目、あるいは、物事を全体の関連の中で
とらえる視野の広さの重要性について、改めて本書から
教えられた思いがします。

2014年2月9日日曜日

上村愛子、ソチ五輪4位入賞

ソチ五輪では、誰よりも上村愛子選手を応援していました。

長野7位で時の人となってから、ソルトレーク6位、トリノ5位、バンクーバー
4位と、一つずつ順位を上げながら、なかなかメダルに届かない。

とくに、ソルトレーク以降は前評判が高かっただけに、本人のプレッシャーや
落胆は、どれほどのものだったでしょう。上村選手の真摯さや傷心が、手に取る
ように、前回までのオリンピック中継から伝わってきただけに、今回こそと
応援にも力が入っていました。

しかし、今回も4位!でも、TV中継を見ていて、決勝3回目の6人に残った
時には、最終順位いかんにかかわらず、上村選手は本当によくやったんだ
という思いがこみあげてきました。

オリンピックは、4年に一度の祭典だけに、才能のある選手が、たゆまぬ
極限の努力を続けてきたうえに、試合当日、その一瞬の”運”のあるなしを
試されるところがあるように思います。観戦するものも、そこに人生の機微を
感じるのでしょう。

上村選手本当にお疲れさまでした!


2014年2月8日土曜日

絹白生地偏愛

自分の店で取り扱っている品物をほめるようで手前みそですが、
私は絹の白生地の手触りが大好きです。

ことに裏絹などの、薄い羽二重のサラッとして、ぬくもりのある感触が
心を落ち着かせてくれます。

絹生地の魅力というと、まず光沢やドレープの優美さがイメージ
されがちですが、私のような、たえず絹の白生地に接している
ものには、微かなぬめりを伴った肌ざわり、フワッとした感触が
一番の魅力と思われます。

一度、あらためて手にとってみて頂いてはいかがでしょうか。

2014年2月5日水曜日

龍池学区町つくり委員会

地域で長く商店を営んでいるということで、学区の町つくり委員を
拝命しています。

この委員会の活動目的は、最近私たちの地域にマンションが急増して、
旧来の住民と新住民のコミニケーションの促進が緊急の課題と
なったので、それを実現するための方策を考えようというものです。

具体的には、龍池茶話会という催しを開催して、新旧住民に広く参加を
募って、学区の将来像を話し合ったり、学区の所持する大原の校外
学舎でバーベキューを催したり、映画観賞会を企画したりしています。

さて、昨夜その第19回会合が開かれましたが、その席上、委員会の
運営を指導して頂いている、同志社大学の谷口先生から、やはり
先生が主導して、この学区をフィールドにして実施されている
KITフューチャーデザインプロジェクトの経過とデザイン案の報告が
ありました。

このプロジェクトは、仕事をリタイアした地域住民が、地域活動を
通して生きがいを見出し、孤立化を免れる方法を、地域デザイン
という視点からプロデュースしようというものです。

報告を聞いて、古くからの町にも着実に変化は訪れ、私たちも
守るべきところは守りながら、変えるべきところについては、
思い切った意識の転換が必要なのだと、つくづく感じました。

2014年2月2日日曜日

壬生寺 節分会

以前から一度行きたいと思いながら、なかなか機会がなかった、壬生寺の
節分会に行って来ました。

普段落ち着いた、壬生寺周辺の街並みが、沢山の出店などで活気づいて、
あたりに新撰組の史跡などがあることも相まって、多くの参拝客、観光客で
賑わっていました。

出店で取り扱っているものの中でも、特に目を引いたのは、素焼きの
’ほうらく’で、これに願いごとを書き、寺に奉納すると、四月の壬生狂言の
”ほうらく割り”という演目の舞台で、沢山重ねて一挙に割られることにより、
奉納した人が災厄をのがれる、というものです。いかにも壬生寺らしい
趣向と感じ入りました。

また、境内で販売されている線香を立てて、その煙を身にまとうと、

無病息災で過ごせるということで、多くの人が線香を供え、煙を体に
招き寄せていました。一面に線香の煙が漂い、ありがたみがあります。

全体として、日常の庶民信仰の延長のような、ほのぼのとした温もりが、
好ましい印象として残りました。