2014年2月16日日曜日

山口果林著「安部公房」とわたし」を読んで

「安部公房とわたし」は、女優、山口果林が20年間の沈黙を破り、
師、安部公房との秘された恋愛の顛末を記する、告白の書です。

本書を手に取ったのは、私にとっては「方舟さくら丸」に象徴される、
独自の理知的で普遍的なスケールの文学世界を生み出した、
安部公房の創作の秘密の一端を、知ることが出来るかも知れない
と、思ったからです。

安部は、演劇を通して山口果林と師弟関係を結び、それが恋愛に
発展していくのですが、二人の恋情に、彼が女優としての果林を
媒介として、自らの理想とする演劇世界を具現化しようとしたことが
深く関わっているのは、間違いないように思われます。

安部が演劇の創作で鍛えた、実験的な試みや、価値観の転換が、
彼の小説に、他にない深みと立体感を生み出したという意味に
おいては、確かにミューズとしての山口果林の存在は、作家
安部公房に創造の果実をもたらしたに違いありません。

昭和の残り香と共に、芸術に取り付かれたものの孤独と哀しみ
が見えて来ます。

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