2020年1月22日水曜日

鷲田清一「折々のことば」1684を読んで

2019年12月30日付け朝日新聞朝刊、鷲田清一「折々のことば」1684では
17世紀フランスの公爵、ラ・ロシュフコーの『箴言と考察』から、次のことばが取り上げ
られています。

  智は、いつも、情に一ぱい食わされる。

確か以前に、堀田善衛による『ラ・ロシュフコー公爵伝説』という本を読みました。公爵
であり、人文主義者であった、ということなのでしょう。このことばも、短いながら核心
を突いている、と感じます。

確かに人間は智をそなえた生き物である以上に、情に動かされる生き物なので、この
ような事態がしばしば起こります。私なども、頭ではこうしなければならない、これは
してはいけない、と判っているつもりでもついつい、特に付き合いのある人との関係に
おいては、感情に動かされて判断が鈍ったり、妥協をすることがあります。

でも漱石も『草枕』の中で、次のように語っています。「智に働けば角が立つ。情に棹
させば流される。」つまり、理性的に振舞い過ぎると、周りからは融通の利かない人
だと思われたり、冷徹な人間だと見なされされたりする。また逆に、感情に左右され
過ぎると、状況に流されて判断を誤り、失敗することになる。つまりいずれにしても、
上手く人間関係が築けない、ということなのでしょう。

ではどうすればいいのか?無論、智と情のバランスが肝要ということですが、ここで
かの公爵は、人間において智と情は対等ではなく、気を許すと情が勝るものなので、
その点に十分気を付けて、くれぐれも油断するな、と言いているのです。

特に人と人の結びつきが希薄で、変化の激しい現代社会に生きる我々は、智の方に
少し重心を置いて、情には注意を怠らないことが必要なのかも知れません。



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