2019年5月17日金曜日

KYOTOGRAPHIE 2019 金氏徹平|S.F.(Splash Factory)他を観て

KYOTOGRAPHIE 2019も会期末が迫り、今回はまず、京都新聞ビル印刷工場跡
(B1F)で、金氏徹平の大規模展示を観ました。

前回も訪れた印刷工場跡は、抜け殻という雰囲気とまだ息吹が保たれていると
いう感じが残っている独特の空間、そのスペースで展開される、新聞というメディア
をインクなどの液体と紙という物質として捉え表現した、写真、映像、オブジェ、音
などを組み合わせた展観は、まるでテーマパークのようなコミカルさと謎めいた気分
に、訪れる者を誘います。徹底的に物質として表象された新聞メディアの姿は、その
流動感、刹那性が、あたかも報道という活動に宿る命を、表現しているかのよう
です。

同じ京都新聞ビルのエントランスからエスカレーターを上がった2階ホールで展示
されている、これは京都新聞社の企画と思われますが、京都西陣で高齢者の介護
を担った早川一光医師の人生を、写真と節目節目の時期の新聞紙面で追った展示
も、大変に見ごたえがありました。

地域医療に情熱を捧げたこの医師の人生が、正に戦後日本の政治情勢、経済活動、
福祉政策の移り行きとシンクロし、最後には当の本人が介護を必要とする高齢者と
なって、それでもなお、自らの立場から介護行政の改善への提言を発しようとした
生きざまに、感動せざるを得ませんでした。生きることへの重い問いかけとなる展観
でした。

次に室町二条下がるのギャラリー素形で、オサム・ジェームス・中川|Eclipse:蝕/
廻:Kaiを観ました。

この写真展は、ニューヨーク生まれで日本で育ち、現在両国のアイデンティティーを
踏まえながらアメリカで活動する日系作家が、前回の大統領選挙の「アメリカン・
ファースト」という選挙キャンペーンで、深刻な価値観の分断が生まれたアメリカの
現状に触発されて、主に過去作の再構成によって分断の「間」を視覚化した、(Ecli
pse:蝕)と、作家自身の家族の間の個と個のつながりを視覚化した(廻:Kai)から
なる展覧会です。

(Eclipse:蝕)では、アメリカン・ドリームの夢の跡を思わせる、廃墟化した野外のドライ
ビングシアターを捉えた写真が印象的で、生粋のアメリカ人とは一味違うシニカルな
視線が感じられますし、しかし同時にアメリカという国に対する理性的な愛も読み
取れると、私は感じました。

他方(廻:Kai)では、家族に対する日本人的な細やかで、情緒的な愛情がこちらにも
伝わって来て、親近感を覚えます。そのコントラストが織りなす重層的な印象が、この
写真家の他にはない魅力であると感じました。

0 件のコメント:

コメントを投稿