2019年5月29日水曜日

鷲田清一「折々のことば」1469を読んで

2019年5月22日付け朝日新聞朝刊、鷲田清一「折々のことば」1469では
映像作家・片山龍峰による聞き書き『クマにあったらどうするか』から、「アイヌ民族
最後の狩人」姉崎等の次のことばが取り上げられています。

  人間て強いと思っているうちはすごく強いん
  ですけれど、弱いと思ったらこんなに弱いも
  のはないんですね。

この狩人が夕闇迫る中でクマを仕留め、とどめを刺そうと近づいた時に、最早辺りは
とっぷりと暮れて、突如相手は暗闇でもこちらが見えるが、自分は全然見えないこと
に気づいて恐怖に襲われ、後退しようにも足がもつれてどうしようもなくなった体験を
元に、語ったことばだそうです。

私はこんな究極の恐怖体験をしたことはありませんが、でも自分の矜持や頼りに
するものが突然に失われた時、人は情けないほど狼狽することがあるということは、
理解出来る気がします。

例えば子供の頃に、お金を持っているつもりで市バスに乗り、乗り込んでから全く
持っていないことに気づいた時の、全身から汗が噴き出すような体験、あるいは、
スピーチの準備原稿が本番の舞台上で見当たらなくなってしまった時の、しどろ
もどろになった体験など・・・。

後から考えると些細な失敗談ですが、その瞬間の当人にとっては文字通り青ざめる
体験です。

そのような経験をして、私たちは細心の注意や周到な準備の必要性を学ぶので
しょうが、更には、本来人間は一人では何も出来ない弱い存在であることを知り、
周囲の助けがあって初めて日々を無事過ごしていけるという謙虚さを身に付ける
ための、原体験ともなるのかも知れません。

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