2014年9月3日水曜日

漱石「こころ」における、先生の恋の臨戦態勢について

2014年9月3日付け朝日新聞朝刊、夏目漱石「こころ」100年ぶり連載
先生の遺書(95)に、以下の記述があります。

「私は丁度他流試合でもする人のようにKを注意して見ていたのです。
私は、私の眼、私の心、私の身体、すべて私という名の付くものを
五分の隙間もないように用意して、Kに向かったのです。罪のないKは
穴だらけというよりむしろ明け放しと評するのが適当な位に無用心
でした。私は彼自身の手から、彼の保管している要塞の地図を
受け取って、彼の眼の前でゆっくりそれを眺める事が出来たも同じ
でした。」

今や先生の心は、Kの御嬢さんへの思いをはっきりと悟って、
そうはさせじと臨戦態勢に入りました。

これまでKに対して疑念を抱きながらも、彼への友情と彼という
人格への敬意から無理に信じようとしてこなかった、Kが自分の
恋敵であるという事実に対して、開き直って覚悟を決めたのです。

しかしこういう戦いにおいては、あの意志堅牢なKもいたって無力で、
一日の長のある先生が、彼をもてあそぶような様相を呈して来ます。

結局、先生が御嬢さんへの自分の恋情を、Kに打ち明けなかったことが、
裏目に出てしまいました。

でも不器用な若い男同士の間では、女性をめぐり往々に起こりうること、
今はそのように思います。

0 件のコメント:

コメントを投稿