2014年9月9日付け朝日新聞朝刊、夏目漱石「こころ」100年ぶり連載
先生の遺書(99)で、ついに先生が御嬢さんとの結婚を奥さんに
申し込み、奥さんは次のように答えています。
「宜ござんす、差し上げましょう」
「差し上げるなんて威張った口の利ける境遇ではありません。どうぞ
貰って下さい。御存じの通り父親のない憐れな子です。」
「大丈夫です。本人が不承知の所へ、私があの子を遣るはずが
ありませんから」
実にあっけなく、はたして御嬢さんも先生のことを好きかどうかという、
先生の疑念が晴れました。
これほど持って回った手続きを取らなくてもよかったら、Kとの間の
悲劇も生まれなっかたことでしょう。ここが前回読んだ時、もっとも
じれったく感じたところです。
しかし、明治という時代の男女の関係、先生の若さ、誇り高さ、内気さに
思いを巡らせると、決して不自然ではないように、今は思います。
このように考えるとこの小説が、ずいぶん時代がかったものに感じられ
なくもありませんが、人の心の弱さ、もろさ、あるいは一見立派に見える
人の信条、思想というものも、個人レベルに還元すると、いとも簡単に
ゆがめられ、くつがえるものであるということを明確に示す点においては、
現代にも十分に通じる普遍性を有していると、私は思いました。
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