2014年9月7日日曜日

丸谷才一著「女ざかり」を読んで

新聞社の新任女性論説委員を主人公に、贈答という言葉をキーワードと
して、マスコミ、政界そして広く日本文化の何であるかをあぶり出そうと
する、構想豊かで野心的な小説です。

本書の論旨は、我が国の社会関係が、いにしえより神と人間、男女の
交わりに至るまで、贈答によって成り立っているということでしょう。

主人公弓子の人事抗戦を通して、この国の社会システムの中に
あまねく浸透する、贈答行為の有り様が明らかになって行くのですが、
その様々な形のやり取りの中で、特に感銘を受けたのは、若き日の
現首相が、同棲相手の弓子の伯母に人を介して渡した手切れ金を、
受け取った後のこの女性の感じ方で、渡した相手の気持ちを察して、
迷惑ながらも受け取って寛容に事を納めなければならないという
心の静め方には、古くからの日本の美徳の一端が感じられました。

本書が上梓されてから20年以上が経過し、確かに贈答の習慣は
急激にすたれましたが、私たちはそれに代わる人間関係のより所を、
まだ十分に見出していないように思われます。

そこに社会全般における、人の絆の希薄化の要因の一つもある
のではないか?

女性を主人公にしながら男目線の小説ではありますが、深刻さを
増す少子高齢化問題も含めて、今日の私たちの社会を予見する
ようなところもある、優れた小説です。

0 件のコメント:

コメントを投稿