2014年9月19日金曜日

漱石「こころ」における、先生が妻にKの死の真相を語らなっかった理由

2014年9月19日付け朝日新聞朝刊、夏目漱石「こころ」100年ぶり連載
先生の遺書(106)に、先生が妻にKの死の背景を語らなっかった
理由について、自身の思いを語る次の記述があります。

「私は一層思い切って、有りのままを妻に打ち明けようとした事が何度も
あります。しかしいざという間際になると自分以外のある力が不意に来て
私を抑え付けるのです。」

「私はただ妻の記憶に暗黒な一点を印するに忍びなかったから打ち明け
なかったのです。純白なものに一雫の印気でも容赦なく振り掛けるのは、
私にとって大変な苦痛だったのだと解釈して下さい。」

先生が妻に事の真相を語ったなら、先生とその妻の家庭は、随分違った
ものとなったでしょう。二人の絆は強いものになったに違いありません。
事実先生も、もし語ったら妻は理解してくれるに違いないと考えて
いました。

ではなぜ話さなかったのか?その理由として先生は、妻の記憶を
汚したくなかったと言います。でも本当にそうでしょうか?私には
それは建前でしかないように思われます。

確かに先生は、自身を高潔に保とうとする強い意志を持っています。
その価値観からすると、先生のもの言いは筋が通っています。

でも私には、先生が自分の威厳を失うことを恐れて、語らなかった
のだと見えます。なぜなら、妻をいたわるそぶりをみせながら、実は
妻の思いにまったく頓着していないからです。

それとも、これは自分がたとえ悪者になっても意思を押し通す、明治の
男のやせ我慢!そう考えると、明治と現代、彼我の時代の違いを
感じずにいられません。

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