2014年9月4日木曜日

漱石「こころ」における、Kの覚悟

朝日新聞2014年9月4日付け朝刊、夏目漱石「こころ」100年ぶり連載
先生の遺書(96)の中で、先生がKの様子を次のように語っています。

「すると彼は卒然「覚悟?」と聞きました。そうして私がまだ何とも
答えない先に「覚悟、-覚悟ならない事もない」と付け加えました。
彼の調子は独言のようでした。また夢の中の言葉のようでした。」

Kは自らの思想上の問題として、御嬢さんへの恋情を断ち切るために、
死をも覚悟したのでしょう。しかし一方、先生と御嬢さんの関係に
ついては、まったく気づいていないように思われます。

他方先生は今や、なりふり構わず現実にうといKをそそのかして、
御嬢さんへの恋を諦めさせようとしています。

Kとの友情を尊重し、自身の高潔を必死に保とうとしていた先生は、
御嬢さんに対する自分の恋心が彼によって脅かされるに至り、
ついわれを忘れて保身に走り始めたたのです。

先生にも、自らの行為が卑劣であるという認識はあります。
しかし人は往々にして、精神的に追い詰められた時、利己心に
身を任る誘惑に流されやすいものなのでしょう。

Kにしても、自身の信条だけが至上の価値で、彼の心の中には、
お嬢さんの思いや、先生の気持ちなど入り込む余地はありません。

人間とはかくも、やるせないものかと思わされます。

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