2019年4月8日月曜日

高野秀行・清水克行対談「世界の辺境とハードボイルド室町時代」を読んで

かつて辺境に潜入ルポするノンフィクション作家、高野秀行の「謎の独立国家 ソマリ
ランド」を読んで感銘を受けた私は、また日本の辿って来た歴史にも大いに興味を
掻き立てられるので、本書の現代ソマリランドと日本の室町時代がよく似ているという
謳い文句に惹きつけられて、この高野と中世史専攻の歴史学者、清水克行の異色の
対談本を手に取りました。

本書を読むと、断片的に浮かび上がる室町時代の社会慣習や人々の生活が、現代の
私たちのそれとは余りに違うので、自ずとその頃の日本人のものの考え方がいかなる
ものであり、どうして現代人とはかけ離れているのかということに、興味は及んで行き
ました。

中世人と現代人の生活条件の違いを比較する時、まず挙げられるのは、現代社会に
おける政治、経済制度や医療、科学技術の発達、教育制度の充実などでしょう。そう
考えると、現代人の生活環境は中世より遥かに充実し、物質的にも格段に豊かに
なっていることが分かります。

しかし、現代人の精神生活が、それに比して向上しているかは分かりません。いや、
現代人の多くは、必要以上の緊張感や閉塞感、疎外感に苛まれているように思われ
ます。そうすると中世の人間が、たとえ因習や迷信、禁忌に強く縛られていたとしても、
現代人と比べてある意味で生き生きと活力を持って、生活していたことが推察されます。

また室町時代の人々と、世界各地の辺境の人々の生活やものの考え方が似ている
なら、日本の中世人の特質は、広く人類に内在する資質とも考えられます。では我々
日本人は、どのようにして現代に連なる気質を身に付けて行ったのか?あるいはどう
して、中世人の特質を失って行ったのか?

それは簡単に回答を得られる問題ではありませんが、本書を読んでいて感じ取れる
のは、一つは中世には家族、地域コミュニティーの絆が強く、人々にははっきりと認識
出来る自分の居場所があったこと。そして現代では、その関係性が益々希薄になって
いること。もう一つは、本書でも最も印象に残った表現ですが、中世を境に人々の未来
と過去に対する認識が変わったこと。

つまり、中世以前の人間は、過去の方向を向きながら後ずさるように手探りで未来へと
進み、それ以降の人間は、未来の方向に向かって進むようになった、というのです。
これは、人間が自分たちの生き方に自信を持ったということを意味しますが、それは
同時に、過信を生み、不安の増幅ということにもなって行くのでしょう。とにかく、刺激に
満ちた書でした。

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