2019年4月24日水曜日

鷲田清一「折々のことば」1431を読んで

2019年4月12日付け朝日新聞朝刊、鷲田清一「折々のことば」1431では
認知症を患った夫を巡る家族の物語、中嶋京子著『長いお別れ』から、次のことば
が取り上げられています。

  ええ、夫はわたしのことを忘れてしまいまし
  たとも。で、それが何か?

この小説中で彼女の夫が認知症だと知って、気の毒がって声をかけて来た人に、
その妻が答えたことばです。

私もこの作品を読んで、認知症という重いテーマを扱いながら、読後感に何か温か
く、爽やかもものが残ると感じましたが、上記のことばは、作品に流れる旋律を端的
に示すことばだと、思います。

つまり、家を出た娘たちも含め家族全員が、認知症を患った夫あるいは父のことを
気遣い、また主に介護を担う妻は、例え名前は忘れられても、確実に夫婦としての
絆は保たれていると信じているからです。

この家族には、夫婦の愛情や親子の情愛がしっかりと保たれている。そのような
家族関係の中での介護の物語であるからこそ、読後にポジティブな余韻を残すの
でしょう。

私も一定期間認知症の兆候のある母の介護を担い、名前までは忘れられません
でしたが、老いた母が日々衰えて行く姿に、やるせない思いを感じたこともありま
した。しかし、介護を続けながらも私が最後のところで救われたのは、母と私の間に
間違いなく親子の絆が保たれていると、実感出来たためでした。

母の介護を終えて、改めて私は、生活環境においても、また母の病状の進行の
程度においても、最後までそばで看取ることが出来たことを、有難く感じます。

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