2019年4月5日金曜日

朝日新聞「論壇時評」を読んで

2019年3月28日付け朝日新聞朝刊の「論壇時評」をもって、3年間続いた歴史社会
学者、小熊英二の担当は最後ということですが、平成も終わりに近づき、今回の
「この30年の日本 世界の変化になぜ遅れたか」というタイトルで記述された論稿
には、私は考えさせられるところがあると、感じました。

冒頭彼は、国際社会の中での我が国の女性の議員や企業経営者比率の低さ、
同性婚や死刑廃止という人権的なテーマに対する取り組みの遅れを示して、なぜ
日本の社会は変化に取り残されたのか、と問います。

その答えは彼によると、まず日本が今まで経済大国の地位にあり、これまで国際
社会の変化に過敏に反応しなくても十分に国内だけでやり過ごして来られたこと、
その端的な例としてこの国では、就職に際して英語など国際コミュニケーションの
能力が、さほど重視されて来なかったことを挙げています。

それとも関連してまた政治問題においても、ヨーロッパでは「外国語を自在に操り
世界を飛び回っているエリートと、自国を出ることなく、地元の人を相手にして一生
を過ごす人」の貧富の格差が深刻であり、我が国では「大企業社員とそれ以外」
の格差が重要な課題である、と語ります。

確かにこれまでの日本では、国際社会の荒波を直接には受けない、豊かで閉ざ
された社会であるという恵まれた環境が、世界の変化に対する適応を遅らせて
来たのでしょう。その結果が、今日の国際標準からの立ち遅れという形で現れて
いることになります。

また我が国の若者たちはSNS世代ということで、国際社会に開かれた価値観を
持ち、権威主義や女性差別を嫌う傾向を持つけれども、その考え方は多様性や
公正を求める社会運動には結び付かず、共感と寛容という世界の若者共通の
傾向は、日本では現状維持に働いているのではないか、と述べています。

かつての政治の季節の挫折を経て、経済的な豊かさは人々から物事を深く考える
問題意識を奪ったのかもしれません。そのただ中を生きて来た人間として、私にも
問い掛けられているものは大きい、と感じました。

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