2019年1月16日水曜日

村上春樹著「世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド上巻」を読んで

村上の最初の頃の長編をあまり読んでいなかったので、本作は是非読みたいと思って
いました。

この作品は、「ハードボイルド・ワンダーランド」と「世界の終わり」という二つの
物語が交互に語られる作りになっていて、「ハードボイルド・・」は近未来と思しき
世界で、計算と記憶に関する特殊な機能を脳に埋め込まれた〈私〉が、その獲得した
能力のために否応なく騒動に巻き込まれる冒険活劇。一方「世界の終わり」は中世世界
を思わせる高い壁に囲まれた閉鎖的な町で、そこに生息する一角獣の頭骨から古い夢
を読むことを仕事とする〈僕〉の、幻想的で静謐な物語です。

二つの物語は時代背景も語り口も異なり、上巻では両者の関連性も明らかではありま
せんが、ただ一角獣の頭骨というキーワードだけが、後にはこの二つの物語が絡み
合うことを予感させます。

従って上巻を読み終えた時点で読者が期待を募らせる訳は、それぞれの物語の成り
行きと、この全く性格の違う二つの話が一体どのような手際で収斂されるのかという、
重層的な興味によることになります。

そのような期待を膨らませる方法としてもこの長編小説の作りは秀逸で、動の物語と静
の物語が交互に断絶を繰り返しながら語り続けられることによって、両者の緊張はいや
がうえにも高まって行きます。

またそれぞれの物語を個別に見ても、その喚起されるイメージはまるで色彩を帯びるか
のように豊穣で、例えば「ハードボイルド・・」の〈私〉を取り巻く、計算士、記号士、
やみくろの入り乱れた暗闘は、現代のサイバー世界の攻防を想起させますし、「世界の
終わり」の一角獣の生態は、中世の人々の因習にとらわれた生活をイメージさせます。

とにかく、下巻を読むのが楽しみです。

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