2019年1月14日月曜日

青地伯水「現代のことば 天草とサンダカン」を読んで

2019年1月9日付け京都新聞夕刊「現代のことば」では、京都府立大学教授の筆者が
2018年7月に「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」が世界文化遺産に登録
されたことと、同年11月に女性史研究家・山崎朋子氏が亡くなったことに因んで、
「からゆきさん」を題材とする『サンダカン八番娼館』について語っています。

「からゆきさん」とは、主に明治期に東南アジアを中心とする海外の地に、娼婦として
売られていった天草、島原地方の貧しい家庭の少女たちを指すことばで、これらの
薄幸の女性について山崎氏が綴る同作は、この文章にも記されているように、1974年
に社会派の熊井啓監督によって映画化されて、反響を呼びました。

私がこの「現代のことば」から思い起こしたのは正に熊井監督の映画で、公開当時
18歳ぐらいであった私は、友人と観に行って少なからぬ衝撃を受けました。それ故に
今回も40年以上も前の映画のシーンの断片が、まざまざと脳裏に蘇って来たのだと
思います。

第二次世界大戦終結後10年ぐらいの間をおいて生まれ、高度経済成長期と轍を同じ
くするように育ってきた私たちにとって、明治以降の日本人がまだ地域や階層によって
は深刻な貧困を抱えていたことは、今となっては自分の無知を恥じるばかりですが、
大きな驚きだったのでしょう。

しかしだからこそこの映画は、青年期の私の楽天的な自分を取り巻く社会環境に
対する捉え方、一面的な価値観に、一石を投じてくれたのだと思います。そして山崎氏
にしても熊井監督にしても、経済成長に湧くこの国の遠からぬ過去の裏面をあえて白日
の下に晒すことによって、我々に原点の再考を促そうとしたのだと、今は感じます。

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