2018年10月20日土曜日

是枝裕和監督「三度目の殺人」を観て

私が好きな是枝監督の2017年の映画「三度目の殺人」が、テレビの地上波初放映
ということで、まだ観ていないこともあり早速テレビのチャンネルを合わせました。

これまでの作品とは趣向の違う法廷劇で、凄惨な殺人事件の沈鬱さと何が真実か
わからないもやもや感に包まれたまま、重い余韻と共に映画は終わりました。

過去に殺人を犯したことのある三隅(役所広司)が、首になった工場の社長の殺害
容疑で逮捕され自供、弁護を引き受けた敏腕弁護士重盛(福山雅治)が、死刑が
ほぼ確実と予想されるところを無期懲役に減刑させようと奔走するうちに、三隅の
二転三転する供述から殺人の動機に疑問を感じ・・・。

ざっとこういうストーリー展開の中で、まず、被告の供述を曲げてでも減刑を勝ち
取ろうとする、重盛の強引な法廷戦術が目につきます。それに対抗する検察官の
あくまで対面は守りながら身より実を取ろうとする、両者の虚々実々の駆け引き。

この映画では公正を期するはずの裁判が、弁護側、検察側の思惑の綱引きの結果、
歪んだ判決に至る危険性を示唆しているように感じられます。監督はこういう描写
によって、えん罪事件の存在の可能性や死刑という制度の危うさを、訴えかけている
のではないでしょうか?

殺人を重ねたと思われるにも係わらず、心優しい人物として描かれる三隅のこの
事件の動機を重盛が調べるうちに、三隅が被害者の家族と複雑な関係を持つことが
浮かび上がります。特に身体に障がいを持つ被害者の娘咲江(広瀬すず)は、父親
を殺されたというのに、自身の秘密が公になることも辞さず、法廷で三隅を弁護する
覚悟を持つほどに、彼に好意的です。そのことはどのような真実を示すのか?

三隅、重盛、被害者ともに実の娘との関係が破綻ないしは危機的な状況にあり、
その事実が事件や裁判の行方に濃い影を落とす・・・。この映画は、是枝監督が
主要なテーマとする家族を描く映画でもあります。

拘置所の面会室で三隅と重盛が透明な仕切り板を挟んで対峙する場面、監督は
側壁を取り払って仕切り板の薄い側面を中央に据え、両者の前かがみに向かい合う
顔が、あたかも直接接触するかのように見えるアングルから二人のやり取りを描き、
迫真性、両者の共通点と断絶を表現します。その映像が忘れがたく、強いインパクト
を残す映画でした。

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