2018年10月17日水曜日

京都高島屋グランドホール「入江明日香展」を観て

注目の若手銅版画家という入江明日香の大規模個展を観て来ました。私は彼女の
作品に触れるのは初めてで、その作風の斬新さが印象に残りました。

初期の抽象的な作品を観ても、文字を中心に据えてそこからイメージを飛翔させて
いくという制作方法が大変ユニークで、心に訴えかけてくる色使いも相まって、後の
才能の開花を予感させます。また逆に、そこから展開する具象的表現にも、初期から
一貫するものが見て取れて、ぶれない制作態度といったものも、感じさせられました。

入江が抽象から、花、昆虫、動物を経て人物の具象表現へと画風、画題を変遷さて
いくにあたり、人物を描きたいと思いながらどのように表現したらよいかと思い悩んで
いる時に、子供がふと、幼いとも大人びたともつかない表情を見せた瞬間に、描き方
のヒントを得たと語っているといいます。

この作者の言葉が、正に彼女らしい人物描写の魅力を凝縮しているというように、
その表現は夢と現実のあわい、過去と現代のあわい、写実とアニメ的な描法のあわい、
といった一点に焦点を合わせることのない、揺れ動くような情動を観る者に喚起させる
と、感じられます。

また彼女の作品が、和紙に銅版画をコラージュし、水彩、墨、箔、胡粉などを施すと
いうミクストメディアの技法を用いて制作されていることも、版画の線のシャープさと
直接描くことによる鮮やかさ、存在感を融合させた独特の質感を生み出していると、
感じました。

伝統的な日本の絵画の美意識を、鋭い感性で現代に移し替えればこのような表現に
なるのではないかと思わせる、刺激的な展観でした。

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