2018年10月24日水曜日

京都高島屋グランドホール「第65回日本伝統工芸展 京都展」を観て

今回も恒例の伝統工芸展を観て来ました。例の通り染織部門を中心に観て回り
ました。

まず楠光代の花織帯「クリスタル」が目に留まりました。花織という伝統的な技法
を用いながら、美しい藍系の色使いの妙もあり、白い模様とわずかに添えられた
印象的な紅とのコントラストが、宇宙空間を思わせる詩情あふれるモダンな世界
を現出しています。このような清新さは、時代の要請にも十分合致するものだと、
感じました。

次に菅原高幸の友禅訪問着「雨上がり」が印象に残りました。この作品は色彩の
ハーモニーが美しく、最近の友禅作品は全体に硬質な表現が多い中にあって、
柔らかく浮き立つような、それでいて格調を失わない華やぎのある、手書きの
温もりを十分に体感できる訪問着に仕上がっていると、感じました。

武部由紀子の刺繍着物「鉄橋ヲ渡ル」は、染織部門の中でも刺繍作品が少ないと
いうこともあって、継続的に注目して来ましたが、今回の作品は鉄橋の意匠を大胆
にアレンジした図柄に躍動感があり、無地のシンプルな着物の地に抽象的な刺繍
を施すだけではかさを持たせることが難しいという難題を十分に克服した、洗練
された着物になっていると、感じました。

最後に村上良子の紬織着物「風」は、大ぶりの大胆な図柄と、天然染料ならではの
繊細で美しい色彩の微妙なコントラストが絶妙にマッチして、さすがの感覚と技量を
感じました。手織りという多大な手間と時間を要する技術を用いながら、それを感じ
させない軽やかさの表現に、天性の才能が示されているのでしょう。

端正な手仕事の美しい作品を観ることは、一時巷の喧騒や慌ただしい時の流れを
忘れさせてくれます。一般の美術展を観るのとはまた違う充実感を味わわせてくれ
るのも、伝統工芸展の魅力です。



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