2018年10月10日水曜日

京都国立近代美術館「東山魁夷展」を観て

現代を代表する日本画家の一人で、没後20年ぐらいが過ぎても今なお人気の高い
東山魁夷の回顧展を観て来ました。いろいろ事情があってなかなか会場に行けず、
最終日の10月8日に辛うじて滑り込みましたが、開館時間にはすでにチケット売り場
に長い列が出来ていて、改めて作品に触れたい人の多さに驚かされました。

東山の絵画を今まで実際に目にする機会は、私は日展で晩年の作品に出会うことが
多く、その折にも日展日本画の顔として、並みいる作品の中で特別な光彩を放って
いるように感じて来ましたが、今展でその代表作に触れてその素晴らしさに改めて
気づかされました。

例えば代表的な作品の一つ『道』は、図録等ではお馴染みですが、実際に作品の前
に立つと、大きな画面の中央を占める道の褐色を帯びたグレーと、それを縁取る
草叢の表情豊かなグリーンの微妙な諧調やそれぞれの起伏に富む質感、伸びやか
な量感が心地よく、画面上方を絶妙に領する淡い灰青色の空と相まって、絵の中に
吸い込まれて行くような感覚に陥ります。またこの描かれた道は、鑑賞者自身が心の
内で生涯辿る道のようにも感じられました。

このような東山絵画の魅力の秘密は一体どこから来ているのか、と自問しながら
会場を進んで行くと、京都四季習作やスケッチのコーナーに目が留まりました。

これらの作品には彼が京都を題材とする絵画を制作するに当たり、そのエッセンスを
抽出するやり方の跡が残されていて、魅力的と感じる対象に大胆に接近して、その肝
の部分を切り取るような描写法が見受けられました。

また日本の風景を描くにしても、ヨーロッパのそれを描くにしても、それぞれに風土の
特長を示しながらも揺るぎない、彼の絵画特有の普遍的な表現スタイルがあること
にも気づかされました。

これらの特徴から、私は東山の作品では、東洋の伝統や日本的な美意識を残し
ながらも、それを現代的な絵画として洗練させるために、モダンで大胆な構図の画面
作りや西洋的な量感表現を駆使して、独自の表現を生み出していると感じました。

彼こそその頃の日展が標榜した、現代社会に通じる日本画を体現する画家であった
のだと、納得させられました。




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