2018年10月13日土曜日

マーギー・プロイス著「ジョン万次郎 海を渡ったサムライ魂」を読んで

幕末、維新期に日米の懸け橋となった、ジョン万次郎の伝記や物語は幾つも出版
されていますが、アメリカの児童文学者によるそれは私には斬新で、本書を手に取り
ました。

よく知られた話を史実に沿って描いたと謳われているように、まず公正な視点という
ことが印象に残りました。

例えばストーリーの中で私が一番好きな、無人島に漂着した万次郎がアメリカ
の捕鯨船に拾われ、船内で過ごすうちに船長と心を通わせていく場面、日米双方に
偏見や誤解が多く存在する中で、万次郎はアメリカの文明力を目の当たりにして、
それをもっと学びたいと心を開き、他方船長はこの少年の素直さ、勤勉さ、好奇心の
旺盛さが気に入って、アメリカ帰国後は我が子同然に育てることになります。

その過程でも、著者は日米双方の文化やものの考え方を一方に偏ることなく、公正
に描くように努めていると感じられます。万次郎はアメリカの技術力に驚嘆しますが、
同時に几帳面さなど、日本人の方が優れた部分もあると感じていることも、忘れず
描かれています。

万次郎を引き取ることになる船長は、当時のアメリカ人が東洋人の少年を偏見なく、
一人の同じ人間として取り扱い、養育したところに、信仰に基づくアメリカの良心、
先見的な心といった美点を体現しますが、著者は捕鯨船内やアメリカ国内の生活
の中で、万次郎が偏狭な差別に苦しむ様子も、きっちりと描き込んでいます。

またこの描写は史実通りなのかは分かりませんが、万次郎が、アメリカ人の捕鯨の
やり方がクジラの身体の必要部分だけをはぎ取って、肉は捨てるという日本人の
倫理観からは残酷なものであると感じる部分、今日の日米の捕鯨に対する立場の
違いと照らし合わせても、国による価値観の相違ということを、改めて考えさせられ
ました。


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