詩の世界を巡る最近の事情やウエブ上の話題に疎いので、私は文月悠光という詩人
やその詩を全く知りませんでした。この本を知ったのも京都新聞の書評で、そこに
評されているこの詩人が、現代の社会的に活躍している若者に私がイメージしている
姿よりも、遥かにシャイで生真面目であると感じられ、好ましく思ったので、本書を手に
取りました。
とはいえ、読み始めるまでこの詩人の性別も知らず、そもそもウエブに掲載された文章
を書籍化した本を読むのも初めての体験だったので、正直少し戸惑いながらページ
を繰り始めました。
しかし読み始めてまず感じたのはある意味での懐かしさ、早熟の天才詩人、しかも
うら若い女性と、むくつけき初老の男の自分を比較するのはおこがましく、気恥ずか
しいのですが、人見知りで消極的、何事においても周囲の人に依存し勝ちであった
若い頃の私の心情と、彼女のそれとに共通するものを見る思いがしたのです。
もっとも、彼女は逆境にもくじけない詩人としての才能と矜持を有し、当時の私は情け
なくも、そういうものを何一つ持ち合わせていなかったのですが・・・。
そういう訳で、俄然親近感を持って読み進めることになりましたが、彼女が初体験の
様々なことにチャレンジした心境を告白する本書は、くしくも読みながら私の若かりし
日の苦い思い出を、心に去来させることにもなったのです。
さて共通項もあると私が勝手にシンパシーを抱いている彼女の境涯の中でも、私には
全くあり得なかった深刻な悩みが、この本(元の連載)が生まれる契機となっています。
それはかつて彼女が女子高生詩人として華々しいデビューを飾り、大学進学後も才能
をもてはやされる内に、その流れに身を任せるように詩人の仕事で生計を立てる
社会人になってから、自らの立場の限界を感じて途方に暮れる部分です。
一躍社会的な脚光を浴びて、無我夢中で世間から求められる役割を演じながら、突然
自らの立ち位置が分からなくなる戸惑いは、到底私などの想像の及ぶところでは
ありませんが、健気にも彼女は、それまで詩作に専念して来たことによって欠落して
いた社会体験に果敢に挑戦し、その結果として自らの性格上の欠点に気づき、自らに
課された詩人としての役割、人に訴えかける詩の力を再認識します。
私自身の若い頃の悩みと比較しても、彼女は弱冠その若さで、遥かな精神的財産を
手に入れたと、感じました。
詩人文月悠光のこれからの活躍を、自然に応援したくなりました。
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