私は、オットー・ネーベルという画家の作品はもとより、名前も全く知りませんでした。
それで本展も、未知の画家への好奇心も手伝って、訪れてみることにしたのですが、
一目彼の作品を観ると、まず既知の絵画に接するような懐かしさがわいて来て、
正直少し戸惑いました。
でもこの展覧会を順路に従って観て行く内に、やがて私の感慨の理由も、次第に
明らかになって来ました。というのは、ネーベルは私の好きなクレーやカンディンス
キーといったバウハウスと繋がる芸術家と交流も深く、親しい存在の画家だったの
です。
ですからまず驚かされたのは、クレーやカンディンスキーは当時、他の追随を許さ
ない個性的な絵画を制作する画家というイメージを、彼らの作品に親しむ内に、私が
勝手に作り上げてしまっていて、同時代に親交のあったネーベルの絵画に、彼らと
似通ったテーストが感じられたことが、私の予想を超えたものであったからだと、思い
ます。
しかしそのような事実に気づくことによって、彼らの活躍した時代の芸術家たちの
熱気、影響関係などを、新たに知ることが出来て、これからクレーやカンディンスキー
の絵画を観る時の私の鑑賞姿勢も、多少深みを増すように思われて、その点でも
今展を訪れたことは有意義であったと、感じました。またバウハウスに集った芸術家
たちの総合芸術を標ぼうする作品が、再現も含めて立体的に展示されていて、当時
の雰囲気を体感することが出来たことも、私にとっては収穫でした。
さて肝心のネーベルの絵画ですが、一言でいえば繊細で詩的、感情や気分、音楽
など形のないもの、あるいは風景、建物といった目に見えるものを扱っても、それに
対して人が抱く情動を写し取ろうとするような、純粋に形而上的な絵画、思想を
含まぬ抽象絵画、という印象を受けました。
それともう一点特筆すべきは、その卓越した色彩感覚で、私は「イタリヤのカラーアト
ラス(色彩地図帳)」という作品が一番気に入りましたが、色彩で気分や感情を表現
するのみならず、ある国、地方の特質まで描き出す手際には、感服しました。
ネーベルの作品を多く所有するネーベル財団は、ベルンのパウル・クレー美術館に
本拠が置かれているといいます。一度是非訪れたいと思っているこの美術館に
行けば、ネーベルの絵画にもまた再会出来るのでしょうが、彼が今日まで、このよう
な素晴らしい絵画を残しながら、我々にあまり知られてこなかったのは、彼の近しい
存在であったクレーやカンディンスキーが余りにも偉大で、彼はその陰に隠れて
しまったのではないか、そんなことも考えさせられました。
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