2018年5月23日水曜日

京都文化博物館「オットー・ネーベル展」を観て

私は、オットー・ネーベルという画家の作品はもとより、名前も全く知りませんでした。
それで本展も、未知の画家への好奇心も手伝って、訪れてみることにしたのですが、
一目彼の作品を観ると、まず既知の絵画に接するような懐かしさがわいて来て、
正直少し戸惑いました。

でもこの展覧会を順路に従って観て行く内に、やがて私の感慨の理由も、次第に
明らかになって来ました。というのは、ネーベルは私の好きなクレーやカンディンス
キーといったバウハウスと繋がる芸術家と交流も深く、親しい存在の画家だったの
です。

ですからまず驚かされたのは、クレーやカンディンスキーは当時、他の追随を許さ
ない個性的な絵画を制作する画家というイメージを、彼らの作品に親しむ内に、私が
勝手に作り上げてしまっていて、同時代に親交のあったネーベルの絵画に、彼らと
似通ったテーストが感じられたことが、私の予想を超えたものであったからだと、思い
ます。

しかしそのような事実に気づくことによって、彼らの活躍した時代の芸術家たちの
熱気、影響関係などを、新たに知ることが出来て、これからクレーやカンディンスキー
の絵画を観る時の私の鑑賞姿勢も、多少深みを増すように思われて、その点でも
今展を訪れたことは有意義であったと、感じました。またバウハウスに集った芸術家
たちの総合芸術を標ぼうする作品が、再現も含めて立体的に展示されていて、当時
の雰囲気を体感することが出来たことも、私にとっては収穫でした。

さて肝心のネーベルの絵画ですが、一言でいえば繊細で詩的、感情や気分、音楽
など形のないもの、あるいは風景、建物といった目に見えるものを扱っても、それに
対して人が抱く情動を写し取ろうとするような、純粋に形而上的な絵画、思想を
含まぬ抽象絵画、という印象を受けました。

それともう一点特筆すべきは、その卓越した色彩感覚で、私は「イタリヤのカラーアト
ラス(色彩地図帳)」という作品が一番気に入りましたが、色彩で気分や感情を表現
するのみならず、ある国、地方の特質まで描き出す手際には、感服しました。

ネーベルの作品を多く所有するネーベル財団は、ベルンのパウル・クレー美術館に
本拠が置かれているといいます。一度是非訪れたいと思っているこの美術館に
行けば、ネーベルの絵画にもまた再会出来るのでしょうが、彼が今日まで、このよう
な素晴らしい絵画を残しながら、我々にあまり知られてこなかったのは、彼の近しい
存在であったクレーやカンディンスキーが余りにも偉大で、彼はその陰に隠れて
しまったのではないか、そんなことも考えさせられました。

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