2018年5月18日金曜日

細見美術館「永遠の少年ランティーグ、写真は魔法だ!」を観て

今年の京都国際写真祭も、メインプログラムは終わりを迎えました。その間幾つもの
写真展を観て、写真表現の多様さ、その訴求力の強さを改めて認識しましたが、私は
今年度の鑑賞の掉尾に、ランティーグの写真展を選ぶことにしました。

というのは、これまで観て来た写真展では、現代という時代の要請もあって、写真を
デジタル加工した作品、写真家が訴えかけたいものを前面に打ち出した表現が目立ち、
それに対してランティーグの作品は、写真を写すという行為の原点を示してくれると、
思われたからです。

さて実際に本展を観ると、写真機がまだ一般化する以前に、魔法の小箱としてこの道具
を手に入れた裕福な家庭の少年が、家族や周囲との幸福な時間を記録するために、
以降喜々として対象にカメラを向け続ける姿が見えて来ます。そしてその写し取られた
作品を通覧すると、時代の移り行きの中で、社会の醸し出す雰囲気や、カメラや
写真技術の進歩が浮かび上がって来るのです。

改めてランティーグの写真の魅力の源泉を考える時、彼が何にも増して写真が好きで
あったこと、自らも含めた家族の至福の時間を止め置きたいという無償で継続的な想い
を持ち続けたこと、悪戯好きで実験精神に溢れていたこと、そしてたぐいまれな美的
センスに恵まれていたこと、が挙げられると感じます。

個別に見ていくと、私は特にこの頃の作品に好感を持ちますが、ランティーグが
少年時代の家族とのピクニックや遊戯など寛いだ様子、愛犬や愛猫の可愛らしい仕草
を写し取った写真は、観る者をも幸せな気分に浸らせ、心霊写真と称する、白い布を
まとった人物を二重露光と思しい手法でぼんやりと浮かび上がらせた写真などは、
いたずら心に微笑まざるを得ません。

自動車、飛行機などの文明の利器のスピード感にも強い興味を示し、自動車レースや
飛行機の飛翔する姿、また発明家の彼の兄が試作した実際に人が乗れる模型自動車や
飛行機で、兄たちが戯れる様子を躍動的に活写します。

他方今展での公開が、日本では初めてというカラー作品は、光と色の持つ効果を存分に
活用して、輝くような色彩感に溢れ、洗練された構図の愛妻のポートレートなどを写し
取って、彼の写真の新たな魅力を私たちに示してくれます。

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