2018年5月11日金曜日

京都春季非公開文化財特別公開「木島櫻谷旧邸」を訪れて

今春の非公開文化財特別公開で、「木島櫻谷旧邸」を尋ねました。

この屋敷の所在地は、京都の中心から北西の衣笠の地。日本画家木島櫻谷が、私たちの
店の近くの旧宅から、当時衣笠村と呼ばれていたこの土地に移り住んだ大正初期には、
まだ緑の多い景勝地だったそうです。

京都画壇の人気画家であった彼が衣笠村に移ってから、土田麦僊、村上華岳、堂本印象、
小野竹喬ら多くの画家がこの地に移住し、「衣笠絵描き村」と呼ばれるようになったそう
です。そういう経緯も、私がこの旧邸を訪れたいと思った理由の一つでした。

さて実際に尋ねてみると、現地はすっかり市街化して風光明媚の地の面影はなく、洛星
中学高校の校舎に隣接していて、どちらかと言うと瀟洒な住宅地というイメージの場所
でした。

歳月を感じさせる重厚な木造の門から入ると、まず迎えてくれたのは、かつて櫻谷の住居
だった和館で、趣味が良く手の込んだ和風建築、襖絵などにも贅が尽くされ、彼の美意識
が充分に反映されていると、感じました。また当時使用された家具、台所用品などの生活
道具類、愛用された玩具、備品などもそのまま残されていて、大正期から昭和初期に
タイムスリップしたような、懐かしさを伴う感覚も覚えました。

次に訪れた洋館は、大正期の特色を示す和洋折衷建築、螺旋階段が美しく、当時収蔵庫、
展示室として使用され、モダンな面影を残します。私の目を引いたのは櫻谷のコレクション
と思しき伊藤若冲の水墨画が展示されていたことで、彼が早い時期から若冲に注目して
いたことに、画家としての優れた審美眼を見る思いがしました。

庭と畑、後世に造られたであろうテニスコートを通って奥の平屋に赴くと、そこは天井の
高い80畳の大画室になっています。ここでは自身の絵画制作や、画塾として弟子たちの
指導が行われたということです。当時の賑わい、熱気が伝わって来て、美を生み出そうと
苦闘する人々が発散させる緊迫した気配が、今も残るようです。

また画室では、今回の公開に合わせて櫻谷存命中に撮影された、彼と孫と思しき家族が
自宅で憩うモノクロの映像がディスプレイで上映されていて、往時を偲ぶ郷愁を益々
掻き立てられました。

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