2016年5月6日金曜日

京都市美術館「琳派降臨 近世、近代、現代の「琳派コード」を巡って」を観て

琳派誕生400年を記念する、一連の展覧会の一つです。

本展は琳派により培われ、発現した日本人固有の美意識が、近代、現代へと
いかに継承され、また未来に展開する可能性を秘めているかを、琳派の美の
エッセンスを「琳派コード」と捉えて検証を試みる展覧会です。

つまり琳派の美意識が、いかに以降の我が国の芸術家に影響を与え、現代の
革新的な創作者にとっても重要なテーマであるかということを示す、展覧会とも
言えます。

本展でまず私の目を引いたのは、神坂雪佳の展示コーナーです。神坂は
近代の琳派継承者としてよく知られていますが、私は今まで版画くらいしか観た
ことがありませんでした。この展示では彼の作品の他に、工芸家との共同作品も
多く展観されています。私はそれらの作品の洒脱さや洗練に、琳派の匂いを強く
感じました。

また明治期以降西洋的な美術観が導入されて、次第に絵画と工芸を明確に
区別するようになりましたが、身の回りを美で彩るものとして珍重された、
江戸期の工芸品に対する価値観をも、近代において継承する芸術家として、
神坂の存在があったことを強く印象付けられました。

近代以降の日本画壇に琳派の美意識が受け継がれていることは、私も薄々
感づいて来ましたが、何と言っても興味を引かれたのは、現代の「RINPAコード」
のコーナーです。

このコーナーは、現代の芸術家の作品の中に琳派のエッセンスを探る試みで、
特に印象に残ったのは、まず細見美術館でも観た名和晃平「PixCell-Fallow
Deer#2」、鹿の剥製らしき造形物が全身透明な水玉状の物質をまとうことによって、
抒情的で幻想的雰囲気を出現させています。琳派にある儚さの美の要素を、
体現しているようにも思われます。

福田美蘭の3点の絵画はパロディー性も強いですが、視点の斬新さや外連味に
おいて、琳派を確かに継承しているように感じられます。

山田えい子の「曲紋の錦糸」「曲紋の舞」の2点のガラス造形作品は、硬質な
素材を用いながら、色の美しさ、模様の愛らしさ、形の絶妙のたわみがマッチして、
祝祭的な華やいだ気分を演出します。このような雰囲気も、琳派の忘れられない
要素の一つであると思います。

こうして観て来ると琳派の美意識は、私たちの心の奥深くにくっきりと刻印されて
いることに、今さらながら気付かされます。最早、日本人のアイデンティティーの
一つと見做してもよいのではないでしょうか。



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