2014年10月21日火曜日

最相葉月著「セラピスト」を読んで

社会的ストレスは増大し、人と人の絆はますます希薄になって、
生きることに何かと緊張を強いられる現代社会。心の病の問題は
より身近で切実なものとなって来ています。

本書は、自らも精神的な不調を抱えるノンフィクションライター
最相葉月が、河合隼雄、中井久夫という今日の日本の心理療法の
礎を築いた二人の巨人の足跡を跡付け、自ら被験者となって
セラピストとクライエント(患者)が形作る世界を明らかにする、
体当たりの書です。

私は本書を読んで、治療者としての河合と中井の、クライエントへの
接し方に感銘を受けました。つまり彼らは、自らがすすめる箱庭療法、
絵画療法といった心理療法を、被験者の適性を見極めた上に、
あくまで実際に受けるかいなかは本人の意思に任せ、当人が制作、
作画を始めてからも極力口出しはせず、するがままを忍耐強く見守る
のです。そこにはクライエントを信頼し、病気は本人があくまで自分の
力で治癒するものだという、明確な意志と思想があると感じました。

また心を病む人は、回復直前に突然悲しみに襲われ、自殺する
者さえあるといいます。これは精神障害を抱える人にとって、病んで
いる状況とはいえその精神状態こそが日常であり、自らの心が
治療に向かうということは、普段の心の状態が大きく組み替えられる
ことになって、本人に不安や孤独を感じさせるようです。

人間の心の不思議さであり、それゆえセラピストはクライエントに
最後まで添い遂げる覚悟が必要なのでしょう。

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