2014年10月10日付け朝日新聞朝刊、夏目漱石「三四郎」106年ぶり連載
(第八回)に、三四郎が初めて東京に出て行く時、汽車に同乗した
見知らぬ男が彼に語る、次の言葉があります。
「熊本より東京は広い。東京より日本は広い。日本より・・・・」でちょっと
切ったが、三四郎の顔を見ると耳を傾けている。
「日本より頭の中の方が広いでしょう」といった。 「囚われちゃ駄目だ。
いくら日本のためを思ったって贔屓の引き倒しになるばかりだ」
有名な文句です。漱石の思いは三四郎にも、この男にも投影されている
ように感じられます。
ロンドンに留学した時漱石は、浜松の駅で見かけた美しい西洋人に
対する三四郎の感慨と同様のものを感じ、劣等感を抱いたのでは
ないでしょうか?
また「三四郎」執筆当時の漱石は、留学という経験によって随分視野を
広げ、日本という国と日本人を客観的に見ることが出来るようになって
いたと、推察されます。
それにしても、明治という時代にありながら、驚くほど卓見です。
日露戦争戦勝直後の日本は戦勝気分に沸き、西洋何するものぞという
気分が広がっていたのでしょう。
一つの目標のために一致団結し、勤勉で誠実に努力するのが日本人の
美質と思いますが、またその場の気分に踊らされやすいのも、歴史が
証明する事実でしょう。
その日本人の特質を踏まえて、漱石は若い三四郎に跡を託す形で、
もっと客観的で広い視野を持てと語り掛けます。
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