7月31日付け朝日新聞朝刊、夏目漱石「こころ」100年ぶり連載、
先生の遺書(72)に以下の記述があります。
「自白すると、私は自分でその男を宅へ引張って来たのです。無論
奥さんの許諾も必要ですから、私は最初何もかも隠さず打ち明けて、
奥さんに頼んだのです。ところが奥さんは止せといいました。私には
連れて来なければ済まない事情が充分あるのに、止せという奥さんの
方には、筋の立った理屈はまるでなかったのです。だから私は私の
善いと思う所を強いて断行してしまいました。」
先生が後に、自らの運命に重大な影を落とす決断をするところです。
物事を選択する時、私たちは往々に明確な理由を求めます。その方が
決断しやすいのは、確かです。ところがことは一概に、そう単純に
進んで行くものでもないのです。
えてして、理由のあることが思うように運ばず、意外な方向に進む
ことがあります。そのような場合後から振り返って、理屈よりも予感や
雰囲気、あるいは経験豊かな人のアドバイスに従っておけばよかった
ということが、えてしてあります。
私も漱石のこの文章を読んで、先生ほど衝撃的なな結果は招かなかった
にしても、若い時には幾度か、こういう経験をしたと思い返しました。
漱石には、私たち人間の泣き笑いを誘う性を見事に描いていると、感じ
させる瞬間があります。
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