島田雅彦のデビュー作にして初期代表作です。
60年安保から70年安保闘争に続く時代、いわゆる政治の季節として、
左翼学生たちによって、一般市民も巻き込んで時の政権の
日米安保条約改定、延長を阻止すべく、激しい抵抗活動が行われました。
しかし70年を過ぎると、追い詰められた先鋭的な左翼活動家の組織が
無残な自壊を遂げ、それとともに学生の左翼運動も急速に衰えて行きます。
本書はそのような時代の、左翼的な問題意識を持つ大学生のサークルの
メンバーそれぞれの行状を、パロディをふんだんにまぶして描きます。
最早、切実に国の現状を変える目標もなく、大衆の支持もない彼らが、
時代錯誤という目に晒されながら、いかに自らの思想を行動や生活に
結び付けていくか?
ソ連の反体制活動家の支援活動は、膠着した現状を打破するために、
彼らにとってまさに打って付けの政治行動です。
彼らの活動は、冗談まじりにあくまで柔らかく、時には恋の誘惑にあっさり
宗旨替えし、消費社会に毒されて目的と手段が転倒します。
でも時代に流されて何も考えない、問題意識を持たない人間になるよりも、
その方がよほど良いのではないでしょうか?
柔軟な生活、思考活動の勧め。私には本書が、主人公たちの未熟さ、
浅はかさへの皮肉ではなく、彼らへの応援歌に読めました。
そしてもしそうであるなら、この小説は現代の硬直した私たちの社会への
問題提起にもなります。
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