2014年8月12日火曜日

滋賀県立近代美術館「手塚治虫展」を観て

手塚治虫の展覧会というと、今までにも色々な切り口で開催されて
いますが、本展は、原画、映像、写真、資料、愛用品などから、彼の
広大な作品世界のエッセンスと作品に込められた思いを、明らかに
しようと試みるものです。

まず感銘を受けたのは、漫画家になる以前の手塚の少年期、
青年期の資料展示で、当時の居住地宝塚の豊かな自然の中で、
昆虫採集に熱中し培われた科学への興味、漫画への目覚めと
医師を目指す中での心の葛藤、戦争の惨禍に直面して人生観の
変更を余儀なくさせられた体験というような、後の彼の漫画の
ストーリー、思想の原点がすでにここに凝縮されている事実です。

また手塚は、漫画の革新という点においても、従来の枠を軽々と
飛び越えるクリエイターでした。かれの生み出したものは、後に
続く作家に多大な影響を及ぼします。

その最たるものがストーリー漫画の創造です。これは、情景説明的で
単調な記述になりがちな漫画表現に、映画を参考にした明確な
ストーリー性と、その表現を可能にするために、躍動感があり、読者の
感性にストレートに訴えかける様々な作画法を駆使して、まさに
眼前に物語が展開するような漫画作品を作り出すものです。

このストーリー漫画の誕生により、以降の漫画家は、表現の飛躍的な
広がりの可能性を獲得したのです。

手塚の漫画、アニメ作品が没後20年以上を経てなお、多くの支持を
集めるのは、彼の作品のキャラクターの魅力と、物語に込められた
思想が現代に生きる人々にも、共感を呼ぶためだと感じられます。

彼は心から自然を愛し、人間を愛した漫画家であったのだと、本展を
観て改めて思いました。

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