2014年8月29日金曜日

鈴木大拙著「禅とは何か」を読んで

欧米に広く仏教、禅思想を紹介した、我が国近代を代表する
仏教思想家、鈴木大拙の講演記録をまとめた禅入門書です。

私自身、仏教の教えは日常のものという意識があって、ことさら
その教義に興味がある訳ではありませんが、禅というとなぜか
触手が動きます。

これは禅宗が私にとって、信仰というよりも修行、悟りといった
心身鍛錬による思想的営為というイメージが強いからで、大拙の
禅哲学書が欧米社会で大きな反響を呼んだのも、禅に不可欠の
ものとしてそのような側面があるからだと思われます。

さて、そのような認識を持つ私が本書を読むと、冒頭から私の
予想は裏切られて、禅が自らの修練と覚醒だけを求めるものでは
なく、得た正覚を広く大衆に広めることを目的とするものである
ことを知りました。

つまり、浄土宗、浄土真宗が念仏によって、仏の道に近づくもので
あるならば、禅宗は悟りを開くことによって、仏の道を体得する
ものであるといいます。その語るところを知ると、禅がことさら
特別ではなく、身近なものに感じられて来ました。

本書が刊行されてから60年余りの時が経過し、その間我が国では
医療、科学技術の目覚ましい発達によって死の概念は希薄化し、
さらに物質的豊かさの高まりによって、精神的、宗教的な価値が
急速に力を失う中で、今なお禅僧が一般向けに語る著作が版を
重ね、禅寺での座禅体験が人気を保つのは、現代人の宗教を
求める心にとって、禅というアプローチが抵抗感少なく、受け入れ
られ易いことを示しているのではないでしょうか。

禅というものを、国際的に通用する哲学的思想として語った
鈴木大拙は、そのような未来を予見していたのかもしれません。

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