2014年8月15日金曜日

漱石「こころ」の中の、先生と御嬢さんの恋情の機微

朝日新聞8月13日付け朝刊、夏目漱石「こころ」100年ぶり連載
先生の遺書(80)の中に、御嬢さんが先生の心を試す、次のような
記述があります。

「御嬢さんも「御帰り」と座ったままで挨拶しました。私には
気の所為かその簡単な挨拶が少し硬いように聞こえました。
何処かで自然を踏み外しているような調子として、私の鼓膜に
響いたのです。」

「御嬢さんはただ笑っているのです。私はこんな時に笑う女が
嫌でした。若い女に共通な点だといえばそれまでかも知れ
ませんが、御嬢さんも下らない事に能く笑いたがる女でした。
しかし御嬢さんは私の顔色を見て、すぐ不断の表情に帰り
ました。」

「なるほど客を置いている以上、それも尤もな事だと私が
考えた時、御嬢さんは私の顔を見てまた笑い出しました。
しかし今度は奥さんに叱られてすぐ已めました。」

御嬢さんは、自分に好意を抱いているはずの先生が、なかなか
自身の意思を彼女に示さないので、先生の友人のKに気のある
そぶりを見せたり、意味ありげに笑って、先生を挑発しています。

一方先生は、気位の高さや気恥ずかしさ、自分の下宿に
一緒に住むようにKを誘った手前、御嬢さんに告白するのが
ますます困難になっていきます。

本当に窮屈で、じれったい閉塞状況のなかで、先生と御嬢さんと
Kの古風な悲劇の三角関係が、まさに形作られようとしています。

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