2019年10月9日水曜日

佐々木閑「現代のことば 宿命との闘い」を読んで

2019年10月9日付け京都新聞夕刊「現代のことば」では、花園大学教授でインド
仏教学が専門の佐々木閑が「宿命との闘い」と題して、集団生活の中に身を置く
ようになった子供が、友達と協力して物事を成し遂げる協調性を身に付けるよう
ように求められ、その一方、勉強や運動で他者より優位に立つために競争力を
養えと言われて育った結果、大人になってからこの相反する二つの規範の矛盾
に引き裂かれ、苦しむことがあることを例に挙げて、このような矛盾を「人間の
宿命」として解説しています。

確かに私たちはこの例にたがわず、様々な矛盾と折り合いを付けて日々の生活
を送っている、と感じられます。まずその端的な例は、欲望と理性でしょう。欲望を
充足させるだけでは、健全な社会生活は営めませんし、そのためには理性を働か
せることも、必要です。でも理性でもって欲望を抑え込み過ぎれば、精神的な健康
を損なうことになる、かも知れません。

同様に、様々な事柄について、人間は片方に偏り過ぎることを避けながら、バラ
ンスを取って考え、行動し、生活を送ることを求められているのではないかと、私は
感じます。勿論そのような中庸を重んじる消極的な思考からは、革新や発展は生ま
れないという、考え方もあるでしょう。しかしあくまで均衡の中から、幾分どちらかに
突出するという形でなければ、健全な改革は生まれない、と私は思います。

この「人間の宿命」を語る文章でも、釈迦の教えとして、一元化した理想を求めるの
ではなく、本来そういうものとして自己矛盾を受け入れ、その姿のままで、いらぬ
欲望を起こさないで生きることが、精神的安定を得る方法と、説いています。

私はこの文章を読んで、この釈迦の教えが、私自身が考える、均衡を持って人生を
生きるということに通じるのではないか、と感じました。

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