2019年10月7日月曜日

あべのハルカス美術館「ラファエル前派の軌跡展」を観て

ラファエル前派の芸術運動は、19世紀半ばにイギリスで起こった運動で、美術史的
にはフランスの印象派と双璧をなすもののようですが、現在の日本の美術愛好家
にとっては、印象派があまりにも有名であるのに対して、ラファエル前派は認知度が
やや低いように思われます。

私も今まであまり、まとまった数のラファエル前派の絵画を観たことがなく、今回の
展覧会では、これまで体験したことのないジャンルの作品に触れられるという期待を
持って、会場に向かいました。

まず会場で目にしたのは、これは良い意味で期待を裏切られたといってもよい、ター
ナーの作品、この画家は以前にも展覧会に行ったことがあって、私の気に入りの
画家の一人なので、ラファエル前派が、その前世代の画家ターナーの絵画創作活動
を擁護する、気鋭の美術評論家ラスキンの思想に共鳴して始められた運動であること
を知り、一気に時代背景を知ることが出来たように感じました。

またこのコーナーでは、ターナーの秀作は無論、優れた素描家でもあったラスキンの
作品も多く展示されていて、その普通の画家とは趣が違う、科学的思考力や観察眼
を兼ね備えた、それでいて詩情溢れる作品たちに、新鮮な感銘を受けました。

今回のメインのラファエル前派の画家の絵画の展示コーナーでは、アカデミズムを
脱して、ラファエロ以前の自由な表現手法の絵画に帰るという、この運動の理念にも
関わらず、最早産業革命や近代化の洗礼を受けた人々の心が、素朴で単純な時代
に帰れないという事実からも推察されるように、その絵画は、対象のあるがままの姿
を捉えようとしながら、何故か表現過剰で、刹那で、官能的、退廃の雰囲気も漂わせ
て、来るべき象徴主義やウィーン分離派の絵画運動を予感させるものと、感じられま
した。しかしその絵画は充分に魅力的で、時間を忘れて、作品に見入りました。

ラファエル前派の第二世代に、ウィリアム・モリスが席を占めていたことも、私には
驚きで、というのは、アーツ&クラフツの工芸運動で、以前から彼をよく知っていた
ので、今展で近代のイギリスの美術史の大まかな流れを、把握することが出来たと
感じられて、その点でも、有意義な美術鑑賞になりました。

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