2019年10月19日土曜日

堂本印象美術館「川端龍子がやってくる」を観て

堂本印象美術館で、特別企画展「川端龍子がやってくる」を観て来ました。

まず、浅草寺の本堂の天井画の共作などを通して、印象と龍子に交友があったこと
を、本展で初めて知りました。龍子から印象への年賀状も展示されていて、龍子の
展覧会がこの会場で開催される、浅からぬ縁を感じました。

美術館に入り、上階にあるメイン展示室に向かう途中の、この会場特有の螺旋スロ
ープ状の回廊壁面の展示スペースに展示されていた、龍子の長尺の軸装画「逆説・
生々流転」は、当初から予定されていたのかは分かりませんが、全くタイムリーな
作品で、少々驚きました。

それというのもこの絵は、つい先日首都圏を直撃して、信州、関東から東北にかけて
大きな被害をもたらした大型台風19号が、上陸以前から例えられていた、昭和33年
の狩野川台風の襲来に触発された当時の龍子が、横山大観「生々流転」のオマー
ジュとして描いた作品だったからです。

水墨表現中心の淡彩で、南洋の素朴な人々の暮らしが営まれている島々の海域で
生まれた台風が、次第に成長しながら日本本土に上陸して、凄まじい猛威を振るう
有様が、スケールが大きく、繊細さも兼ね備えた、力強い筆勢で表現されています。
現実の台風の脅威を体験した直後だけに、自然の抗えない力をひしひしと感じさせ
られました。

京都のしかも、この地に展示されるのに相応しい龍子作「金閣炎上」は、昭和25年
7月2日に放火され炎上した金閣寺を題材としていて、この絵画の前に佇み、じっと
凝視していると、あたかもメラメラと金閣を焼く炎が現前に踊るようで、思わず息を
呑みます。

ちょうど先ほどの回廊の展示スペースの一角に、堂本印象が放火事件直後に焼け
焦げた金閣を写生したデッサンが展示されていて、この作品からは、画家の消失の
無念の思いがにじむ情緒的な雰囲気が感じ取れますが、「金閣炎上」には、感情を
排してあくまで冷静に、事件そのものを描き上げようとするジャーナリスティックな目
が感じられます。

この川端龍子の展覧会は、点数はさほど多くはありませんでしたが、場所と時宜
に適い、充実した展観であると感じました。

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