2019年8月5日月曜日

あべのハルカス美術館「ギュスターヴ・モロー展 サロメと宿命の女」を観て

ようやく念願のモロー展に行って来ました。日曜日というのに比較的空いていて、
じっくりと作品に向き合うことが出来たので、観る者としては有難く感じました。

モローはフランスの象徴派を代表する画家で、本展は代表作の一つ、サロメの
物語にちなむ「出現」をメインに据えて、ファム・ファタル(宿命の女)をキーワード
に展示が構成されています。

まずモローは、最愛の母と生活を共にし続けて、生涯を独身で通したということ
です。ただ結婚はしなかったけれども、その死に至るまで心を許した恋人がいて、
母親とその恋人が、彼の実生活に色濃い影響を与えた女性であったということ
です。

本展の第1章ーモローが愛した女たちーでは、この2人の女性の素描等、肖像画
が出展されていますが、彼のファム・ファタルという主題は、この2人の存在抜きに
は生まれ得なかったと、感じさせられます。

さて代表作「出現」ですが、薄闇に包まれた異国風の荘厳な宮殿で、踊り終えて
洗礼者ヨハネの生首を所望した妖艶なサロメと、当の燦然と光り輝き、血を滴ら
せ中空に浮かぶ生首が、今正に対峙する光景が、劇的に描き出されています。

演劇のクライマックスシーンのような劇的な構成に、観る者はしばし圧倒されて、
この絵の細部の技巧を見落としがちですが、よく観ると宮殿の柱等構造物を
縁取る細い輪郭線が、アクセントと神秘的な効果を生み出し、更には合わせて
展示されているこの絵のための多くの習作、素描類からも明らかなように、
綿密な準備の上にこの名作が生み出されたことが、分かります。優れた絵は、
一見技巧を感じさせない、ということなのでしょう。

モローにとってのファム・ファタルは、女性の魅力の本質を体現する、永遠の
憧れの対象であったようにも、感じられます。しかしその女性のイメージを、ここ
まで妖艶で、洗練された普遍性を持つ美にまで昇華させたところに、彼のずば
抜けた才能があったのでしょう。

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