2019年8月22日木曜日

鷲田清一「折々のことば」1552を読んで

2019年8月16日付け朝日新聞朝刊、鷲田清一「折々のことば」1552では
水木しげるの漫画『総員玉砕せよ!』のあとがきから、次のことばが取り上げられて
います。
                
   ぼくは戦記物をかくとわけのわからない怒り
   がこみ上げてきて仕方がない。

私が少年の頃、漫画誌に連載されていた、水木の妖怪漫画を読んでいると、何か
心がざわつくような不穏なものを感じましたが、彼の戦記物の漫画を読んでも、
それが主に熱帯のジャングルが舞台であることもあって、得体の知れない恐ろしさ
を感じました。

その作品は、当時の少年向けの戦記物の漫画の中でも異色の存在で、例えば
記憶をたどると、他の大多数の漫画は戦闘機のパイロットなどが主人公で、戦争の
悲惨さを描く部分はあっても、その描写のウエイトは華々しい戦闘場面や、死も恐れ
ぬ主人公のかっこよさに置かれていて、ある種主人公を英雄視するものになって
いたと思います。

それに対して水木の戦記物は、もっと暗く、おぞましく、ドロドロして、不器用で気の
いい主人公の兵士が、有無を言わせず、悲惨な戦闘に巻き込まれて行くような哀れ
さ、悲しさがあったように記憶します。

恐らく大部分の戦争漫画は、敗戦後の心の傷のまだ癒えぬ人々の、やり切れぬ
思いを主人公に託した作品であり、他方水木の漫画は、彼が実際に目の当たりに
した戦争の愚かさを、読者に訴えかけようとする作品だったのでしょう。

そういう意味でも私には、戦争について多くを語らない周りの大人に代わって、水木
の漫画から、戦争のおぞましさの気配をくみ取ったように、思い出されます。

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