2019年8月30日金曜日

鷲田清一「折々のことば」1560を読んで

2019年8月24日付け朝日新聞朝刊、鷲田清一「折々のことば」1560では
歌舞伎囃子方、田中佐太郎の『鼓にに生きる』(聞き書き・氷川まりこ)から、次の
ことばが取り上げられています。

   それは目の前の人が体得し、これから自分自
   身が向き合おうとする 「芸」 そのものに対し
   ての礼なのです。

この歌舞伎囃子方は、弟子に稽古をつける時、まず挨拶が一番重要であると説き
ます。そして敬意を込めて挨拶をするのは、師匠に対してではなく、これまでずっと
先人たちが向き合ってきた「芸」そのものに対してだ、と言うのです。

この教えは、熟練の師匠その人が、「芸」に対して謙虚に向き合っていることを示
していますし、恐らくこの言葉には、「芸」に向き合うべき真摯な心の持ちようには、
師匠と弟子の区別もない、という含意もあるのでしょう。

「芸」を極めるためには、「芸」そのものに敬意を払い、どれほど習熟しても常に現状
に満足せず、更なる高みを目指す姿勢が必要なのでしょう。

この教えは一見、伝統芸能の特殊な世界でのみ有効なもののように感じられます
が、恐らくそうではなくて、私たちの日常の仕事に対する取組み方や、生き方にも
つながって来るものだと思われます。

それというのも、仕事にしても、生活にしても、常に今日という日は、過去の連なり
の上に築かれているので、私たちは過去から学び、それを基礎として未来を思い
描いて行かなければならないと、思うからです。そしてそのためには、過去と謙虚
に向き合うことが不可欠でしょう。

伝統的な芸能の熟練の「芸」が、私たちに大きな感動を与えてくれる要素の一つ
には、演者の高い人間性も、あるいは寄与しているのかも、知れません。

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