2019年7月25日木曜日

京都国立近代美術館「世紀末ウィーンのグラフィック」を観て

本展は、アパレルメーカー創業者が蒐集し、京都国立近代美術館が一括で所蔵する
ことになった、ウィーン分離派のグラフィック作品約300点を展観する展覧会です。

ウィーン分離派は、19世紀末ウィーンでグスタフ・クリムト、ヨーゼフ・ホフマンを中心
とする、既存の美術機構に飽き足りない幅広い美術家、芸術家が結集して、分離派
会館での展示会開催、機関紙「ヴェル・サクルム」の発行を両輪に活動した、芸術
運動のグループの呼称です。

分離派では、新しい時代にふさわしい芸術、デザインの模索が行われ、折しも印刷
技術や雑誌メディアの発達に伴って、多くの独創的で優れたグラフィック作品が創造
されました。その成果を一望出来るのが本展です。

さて会場に入ると、この展覧会にふさわしい斬新な会場レイアウトが、まず目を惹き
ます。会場を展覧会の各パートごとに独立的に区切るのではなく、各パートを観て
回りながら一巡出来るように仕切りを少なく、大まかに配置し、しかも各パートにくの
字形の衝立状の展示壁面を設けて展示方法に変化を付け、なおかつ多数の作品
を展示するスペースを確保しています。

また、冊子状のもの、書籍などの作品の表裏を一度に鑑賞することが出来るように、
その作品を半分開いたり、傾けたり、鏡を添えたりの見せる工夫が施されています。

会場で鑑賞者が自由に取ることが出来る、展示作品リストも通常のものより遥かに
大判の表裏印刷された1枚ものの紙で、鑑賞者自らが好きなように折りたたんで、
利用することが可能です。

このような随所に見られる見せる工夫によって、鑑賞者はウィーン分離派の運動の
持つ、革新性、浩瀚さ、熱気を体感することが出来ると、感じられました。

実際に作品を観て行くと、その作品は、絵画、蔵書票、絵葉書、招待状、ポスター、
書籍、日用品、装飾デザイン、建築まで、多岐に渡り、生活に根差した総合芸術の
様相を呈しています。

また、運動の実践者を養成するための工芸学校や、工房も設けられたことが示され
ます。これらの展示を観ていると、現代社会を生きる私たちがイメージする一般的な
芸術観念の根底が、この運動によって醸成されたことが、分かります。

その意味においてこのコレクションが、近代以降の芸術史上大変貴重なものである
ことが十分理解出来ました。

本展と同時開催されている、常設展示の企画も今回は大変充実して見応えがり、私
は今まで知らなかった没後30年であるという、村山槐多と交友のあった洋画家、
水木伸一の館蔵品で構成された小特集の絵の、何とも言えぬたおやかさに感銘を
受けました。このような企画も、美術館にとっては大変重要な活動であると、感じま
した。

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