2018年8月1日水曜日

何必館・京都現代美術館「現代風景画の指標 麻田鷹司展」を観て

同じく日本画家で鷹司の父麻田辨自の画を、祖父が気に入っていたという関係から、
私は鷹司の画にも興味を感じていました。しかし、彼が58歳という若さで今から40年
ほど前に亡くなり、なかなか作品を観る機会にも恵まれませんでした。今回、彼と
縁のある何必館で久しぶりに作品展が開催されるということで、期待を持って会場に
向かいました。

そういう訳で、麻田鷹司という名前は知っていても、作品がどのようなものであるかは
全く知らず、何しろ会場に来て風景画が主体の画家であることを知ったぐらいで、
ほとんど先入観なしに彼の画に触れたのですが、じっくりと作品に対するうちに、その
深い精神性を湛えた風景画に魅了されました。

彼の風景画は単に対象の場所の風景をそのままに描写するのではなく、その情景
との深い対話から抽出された、場の本源的に持つ魅力や、そこから喚起され自らの
心に生じる感興を、画面に定着させたものであると、感じました。

その代表的なものが、「天橋雪後図」「松嶋図」「厳嶋図」の日本三景を描いた屏風で、
それぞれの多くの人々が愛でてきた、日本を代表するおなじみの風景が、夾雑物を
はぎ取られた純粋に抽象的な形象にまで還元されながら、それでいてこれらの場所の
本来持つ魅力を余すことなく発散し、観る者に崇高なものに接するような気分を呼び
起こします。

このような表現を可能にするために、彼は箔を張った画面に載せた絵具をこそぎ取る
ことによって絵肌の光沢を浮かび上がらせるような、手間を惜しまぬ方法も用いたと
いいます。その画が放つ深い余韻は、そのようなところから導き出されているので
しょう。

「洛東・月ノ出」も、京都東山に月が出て、山沿いの家々の瓦屋根を仄かに照らして
いる情景から、京都という地の長い歴史が育んだ魅力が一見控えめながら、過不足
なく描き出されていて、好感を持ちました。


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