2018年8月6日月曜日

京都文化博物館「ターナー展 風景の詩」を観て

イギリスを代表する風景画家として日本でも人気の高いターナーですが、本展を観ると
一口に風景画と言ってもその題材は多様であり、またそれぞれが、彼特有の魅力を
発散していることに驚かされます。

本展は第1章地誌的風景画、第2章海景ー海洋国家に生きて、第3章イタリアー古代
への憧れ、第4章山岳ーあらたな景観美をさがして、第5章ターナーの版画作品、の
5つの章によって構成されています。

第1章の地誌的風景画は、彼がこの主題に取り組んだ当時はまだ写真が普及して
おらず、モニュメンタルな建築物やその場所に特徴的な景観、遺跡などを描き、記録と
して留める絵画の需要があったといいます。従ってこの種の絵画には目に見える風景
を忠実に描くことが求められているのですが、ターナーのの手に掛かるとこのような
絵画であっても穏やかな詩情に溢れ、また景観に小さく描き添えられた人物や動物
などが景色の雄大さや、その場で何事かが起こっていそうな予感を感じさせて、深い
余韻を残します。

第2章の海景は、ターナーの時代のイギリスは、ヨーロッパ列強国の中で海洋国家と
して覇権を握り、それに伴う自信が彼のパトロンにも海景を求めさせたといいます。
彼のこのジャンルの絵画で私の目を引くのは、うねる波、船の風を一杯にはらむ帆、
激しく流れる雲といった躍動感溢れる描写で、正に画面が観る者の眼前で動き震えて
いるような錯覚に囚われます。特に「風下側の海辺にいる漁師たち、時化模様」では、
荒波に翻弄される小舟の漁師が、ほうほうの体で海から脱出しようとする様子が見事
に活写されていて、自然の中での人間存在の矮小さに思いを致すと共に、迫真的な
描写に感動を覚えます。

第3章イタリアでは、ヨーロッパ北方の人々にとって南のイタリアは芸術発祥の地として
憧憬の対象であるといい、ターナーもその地を訪れ、明るい色調で牧歌的な風景を
描いて、悠久の時の流れも感じさせます。

第4章山岳は、壮大な山岳風景をたおやかに、あるいは急峻な崖や巨大な岩塊を
リアルに存在感を持って描いて、自然の持つ近寄りがたさ、崇高さを表現していると
感じられました。

本展を一巡して私は、ターナーの風景画の魅力は、高い技術に支えられた詩情、
臨場感、物語性にあると、改めて感じました。

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