イギリスを代表する風景画家として日本でも人気の高いターナーですが、本展を観ると
一口に風景画と言ってもその題材は多様であり、またそれぞれが、彼特有の魅力を
発散していることに驚かされます。
本展は第1章地誌的風景画、第2章海景ー海洋国家に生きて、第3章イタリアー古代
への憧れ、第4章山岳ーあらたな景観美をさがして、第5章ターナーの版画作品、の
5つの章によって構成されています。
第1章の地誌的風景画は、彼がこの主題に取り組んだ当時はまだ写真が普及して
おらず、モニュメンタルな建築物やその場所に特徴的な景観、遺跡などを描き、記録と
して留める絵画の需要があったといいます。従ってこの種の絵画には目に見える風景
を忠実に描くことが求められているのですが、ターナーのの手に掛かるとこのような
絵画であっても穏やかな詩情に溢れ、また景観に小さく描き添えられた人物や動物
などが景色の雄大さや、その場で何事かが起こっていそうな予感を感じさせて、深い
余韻を残します。
第2章の海景は、ターナーの時代のイギリスは、ヨーロッパ列強国の中で海洋国家と
して覇権を握り、それに伴う自信が彼のパトロンにも海景を求めさせたといいます。
彼のこのジャンルの絵画で私の目を引くのは、うねる波、船の風を一杯にはらむ帆、
激しく流れる雲といった躍動感溢れる描写で、正に画面が観る者の眼前で動き震えて
いるような錯覚に囚われます。特に「風下側の海辺にいる漁師たち、時化模様」では、
荒波に翻弄される小舟の漁師が、ほうほうの体で海から脱出しようとする様子が見事
に活写されていて、自然の中での人間存在の矮小さに思いを致すと共に、迫真的な
描写に感動を覚えます。
第3章イタリアでは、ヨーロッパ北方の人々にとって南のイタリアは芸術発祥の地として
憧憬の対象であるといい、ターナーもその地を訪れ、明るい色調で牧歌的な風景を
描いて、悠久の時の流れも感じさせます。
第4章山岳は、壮大な山岳風景をたおやかに、あるいは急峻な崖や巨大な岩塊を
リアルに存在感を持って描いて、自然の持つ近寄りがたさ、崇高さを表現していると
感じられました。
本展を一巡して私は、ターナーの風景画の魅力は、高い技術に支えられた詩情、
臨場感、物語性にあると、改めて感じました。
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