2018年8月20日月曜日

深井智朗著「プロテスタンティズム 宗教改革から現代政治まで」を読んで

私自身は仏教徒ですが、カトリック系の幼稚園に通い、中学、高校、大学はプロテス
タント系の学園で学んだので、キリスト教には親近感があります。また、欧米の文化
を知るには、キリスト教についての知識を得ることが必要であると感じているので、
本書を手に取りました。

まず読後の感慨から記しますと、従来の私のプロテスタント理解は紋切り型の表面
的なもので、プロテスタンティズムの発祥から現代社会への影響までを概観する
本書を読んで、キリスト教の長い歴史の中に位置付けられる、プロテスタントへの
理解がぐっと深まったと感じました。

さて、最初に認識を新たにしたのは、宗教改革の創始者と言われるマルティン・ル
ターの歴史上の位置付けです。私の従来の認識では、彼は宗教改革を一人で断行
した立役者で、言わば一夜にして宗教上の既成概念をひっくり返した、スーパース
ターという感覚でした。しかし本書を読むと、ルターが宗教改革の先鞭をつけ、その
結果矢面に立たされたことは事実であるにしても、決して彼一人によってこの運動
が企図され、成し遂げられたのではなく、中世のヨーロッパにおけるキリスト教の
歴史の中で、改革の機が熟され、また当時の政治情勢や工業技術の発達が、この
動きを後押ししたことが見て取れます。

更にプロテスタンティズムのムーブメントは、ルターの企てによって完結したのでは
なく、その後も間断なく改革運動は続けられ、新たな形を生み出していったという
ことです。この経緯を読んで私は改めて、宗教に費やされる人々の膨大なエネル
ギーというものに思いを馳せました。

次に認識を新たにしたのは、著者の語る「古プロテスタンティズム」と「新プロテス
タンティズム」の存在です。「古プロテスタンティズム」はルターの直接の系譜を引く、
カトリックの旧弊に対する改革運動の性格を持ち、一国家一政治体制に一つの
教会という原則の下に、上からの支配という形で運営されたのに対して、そこから
別れた「新プロテスタンティズム」はそのシステムに飽き足らず、信徒自らが教会を
作り、運営するという民主的方法論を信奉します。

このような性格の違いは、前者に体制順応的で保守的な傾向を与え、他方後者に
は革新的で民主的、そして自由主義的な色を強くします。本書では、前者の伝統を
今なお色濃く残す国家としてドイツ共和国を、後者が建国に深く関わった国家として
アメリカ合衆国を取り上げていますが、両国の現代史を見るにつけても、図らずも
両プロテスタンティズムの性格の違いが端的に反映されていて、解説にうなずか
されます。

私のような門外漢にも、欧米のキリスト教の概要が理解できる好著です。

0 件のコメント:

コメントを投稿