2018年7月27日金曜日

京都国立近代美術館「ゴッホ展 巡りゆく日本の夢」を観て

かの高名な画家フィンセント・ファン・ゴッホというと、その波乱に満ちた劇的な生涯
も、作品の衰えぬ人気に大きく寄与していると思われます。しかし私の知る限り、
彼の絵画に対する浮世絵を始めとする日本絵画の影響について、中心に据えて
取り上げた展覧会は今までありませんでした。

本展はオランダのファン・ゴッホ美術館との共同企画として、ゴッホに対するジャポ
ニズムの影響、また彼の没後、彼の生き方や作品に憧れて、その亡骸の眠るパリ
近郊オーヴェールを訪れた日本人の足跡を通して、逆にゴッホの日本の芸術に
与えた影響を明らかにしようとする展覧会です。

まず本展に特徴的なのは、彼の絵画と彼が所持した、あるいは直接影響を受けた
浮世絵作品等を、一緒に並べて展示していることで、この展示方法によって、彼が
いかなる部分において日本美術に魅了され、それを研究し、その結果がいかに
彼の絵画作品に反映されたかを、理解することが出来ます。

このような観点から彼の作品を観ると、彼がパリに出てジャポニズムの洗礼を受け、
その作風を大きく変容させる中で、彼に固有の画法と浮世絵的な視点、色彩表現
が見事に融合して、彼の芸術が花開いたことが分かります。

勿論本邦初公開作品も含め、ゴッホの最盛期の絵画が数多く展示されているのも、
本展の大きな魅力で、一つ一つの作品に強い感動を伴って思わず見入ってしまい
ますが、彼の絵画が我が国でこれほど人気があるのも、一つは日本人の美意識
との親近性によるのではないかと、改めて気づかされました。

パリに滞在後彼は、理想郷として日本に重ね合わせた南仏アルルに向かいます
が、その後の悲劇的な人生や残した絵画にも、彼の日本的なものへの憧憬が
跡づけられています。ゴッホの夢見た日本を現実の日本人として振り返ることも、
本展のミステリアスな感興でした。

他方彼の没後多くの日本人芸術家、文化人が彼に魅入られ、その終焉の地まで
赴いた記録や、彼の絵画の影響の下、里見勝蔵や佐伯祐三が描いた日本人に
よる洋画の名作は、彼と日本の幸福な魂の交歓を感じさせずにはおきません。

人種や国境、地理的距離の壁を軽々と飛び越える、芸術の潜められた力を、まざ
まざと見せてくれる展覧会でした。

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