2018年7月6日金曜日

鷲田清一、山極寿一対談「都市と野生の思考」を読んで

哲学者で京都市立芸術大学学長、鷲田清一と霊長類学者で京都大学総長、
山極寿一の対談本です。各人の文章には、新聞掲載のエッセー等で親しみを
持っているので、迷わず手に取りました。

対談なので肩肘張らぬ物言いながら、各々がそれぞれの分野のみならず、
多方面の第一線で活躍する学者で、他方権威ある大学の顔として学内を束ね、
対外的な発言を担う人物ということもあり、話題は文化、芸術、教育と多岐に
渡り、その中には知的好奇心を刺激される発言も、随所に見受けられました。

私が特に興味を覚えたのは、この二人の対談ということもあって、霊長類の
生態から導き出される現代人の生活習慣、行動全般のルーツやあり方の考察
という部分で、-ゴリラから学ぶリーダーシップ-という項では、ゴリラの
グループのリーダーに求められる魅力は、他者を惹きつける魅力と、他者を
許容する魅力であると語り起こし、リーダーは群れの中のメス、子供といった
弱者に人気がなければ務まらず、グループを力で押さえつけるよりも、
コミュニケーション能力が必要であるといいます。

折しも私たち日本人のリーダー像は、高度経済成長期の中で、精力的で有無を
言わさず人を引っ張るのが理想とされるきらいがありましたが、今日の低成長期
においては、ゴリラのリーダーのように、後ろから見守りフォローする
リーダーシップの必要性が増すと結論付けます。

高齢化社会の到来によって、深刻になる老人問題については、老人の容姿が
若い時よりも相対的に親しみやすく変化するのは、孫と交流するためであり、
生活文化は祖父母によって孫世代に継承されるのが本来の姿で、グローバリ
ゼーションや情報化社会化の進行によって、価値観の急速に変化した現代社会
で、老人は成熟の意味をもう一度問い直し、若者との関係を再構築することの
必要性が語られます。

もう一点興味深かったのは、類人猿と人間との間の性と食に対するタブーの
感じ方の違いで、類人猿は、性は繁殖に係わる行為なので、ペアであるオス、
メスの関係性を前面に出しますが、食は個体維持のための行為なので隠す。
対して人間は、性を隠し、食を公にするというように関係が逆転しています。
これは人間が性に対して、種の維持より、個人の欲望の充足に重きを置くように
なったためだ、といいます。

先日赤坂憲雄著「性食考」を読んで、動物としての人間の性と食の関係の近さ
を実感したところなので、生物界の中で、人間という存在のイマジネーション能力
の高さという特異性を、改めて感じさせられた思いがしました。

0 件のコメント:

コメントを投稿