2018年2月16日金曜日

国立国際美術館 ブリューゲル「バベルの塔」展を観て

オランダのボイマンス・ファン・ベーニンゲン美術館が所蔵するピーテル・ブリューゲル1世
の代表作の一つ「バベルの塔」と、ヒエロニムス・ボスの「聖クリストフォロス」「放浪者
(行商人)」を中心とする展覧会です。

まずこれらの世界的に貴重な作品が、日本のしかも身近な美術館で鑑賞出来ることを
喜びたいと、思います。

さしあたり展覧会全体を観ての感慨として、ブリューゲル、ボスの作品が地元ネーデル
ランド(オランダを含む)にあることは当然としても、彼らの代表的な作品が他にもオースト
リア、スペインなどに存在するとという事実から、かつて植民地の貴重な美術品が
ヨーロッパの旧宗主国に所蔵されていることとはまた違った、ヨーロッパ諸国の成立を
巡る複雑な歴史の一端を想像させられて、大変興味深く感じました。

この展覧会はボス、ブリューゲル登場の背景として、15~16世紀ネーデルランド絵画の
名品の展示から始まりますが、これらの絵画が相対的に堅実な彩色を施した硬く、緻密
な描写を特徴としているのに対して、確かにボス、ブリューゲルの作品はその伝統を継承
しながらも、構想、着想の奇抜さ、大胆さ、スケールの大きさにおいて、群を抜いています。
両者の絵画が、特別視される所以でしょう。

ボスの奇想は、私はついつい若冲などの日本の奇想と比較してみたくなりますが、日本の
画家の奇想が、ユーモアや熱情など感情のほとばしりとして出現すると感じられるのに
対して、ボスのそれは例えや比喩など、思念が暴走して生み出された産物と感じられて、
彼我のものの感じ方、考え方の違いを見る思いがして、面白く感じました。

ブリューゲルの版画からは、版画制作が時代の要請であったことと同時に、彼がボスの
影響を色濃く受けたことが分かります。後期の彼の絵画にも、ボスの観察眼や、発想は
脈打っているのでしょう。

かつて私はブリューゲルのもう一点の「バベルの塔」を、所蔵美術館であるウィーンの
美術史美術館で観ましたが、その絵画の塔の大きさに圧倒されたのに対して、今回の
作品では、その緻密さに感動しました。

画家は愚行でもある人間の営みを大所高所より俯瞰する一方、一つ一つの行為を慈し
み、その総体としての営為を誇らしくさえ感じています。雄大なスケールと、緻密さの見事
な融合に、神々しささえ感じさせられました。

オランダ美術の魅力を堪能出来る、展覧会でした。
                                  (2017年8月15日記)

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