2017年1月27日金曜日

京都文化博物館「ダリ版画展」を観て

先般、京都市美術館で開催されているダリの大規模な回顧展を観て、彼の魅力に
新たに気付かされた私は、その姉妹展ともいえる本展にも、必然的に足を運び
ました。

版画展ということで、京都市美術館の展観よりもこじんまりとしていますが、内容は
密度が濃く、豊穣で、彼が版画の創作者としても、超一流の存在であったことが
見て取れます。

まず、ダンテの「神曲」の挿絵として企図された、水彩画から制作された木口木版の
シリーズ100点が冒頭に並べられていますが、ダリ特有のシュールレアリスティック
なお馴染みの造形表現を用いながら、そこから漂い出て来るイメージや詩情は実に
豊富で、あるいは写実的な挿絵よりも、その哲学的で深遠な「神曲」の世界観を
うまく表現し得ているのではないかと、感じられました。

このような作品を観ていると、彼独特の奇抜なイマジネーションが生み出す絵画の
基底には、伝統への憧憬があることが見て取れます。その他にも彼の版画作品
には、文学から題材を得たものが多く見受けられ、彼がしばしば用いる造形記号
(柔らかい時計、縄跳びする少女、など)も、その影響の下に生み出されたのでは
ないかと、感じさせます。

さらに「日本民話」のシリーズは、私たち日本人が観ると大変ユニークで、物語の
本来の雰囲気とは遠くかけ離れていながら、彼の描き出す世界の囚われのなさが、
清々しささえ感じさせました。コラージュ的な表現を試した実験的な作品など、様々な
版画技法を駆使して留めなく溢れ出るイメージを、画面に定着させようとした様子が
見て取れました。

それゆえ会場全体には、遊び心と多様なイメージが軽やかに戯れるような、和やかな
空気が流れているように、感じられました。
                              (2016年7月24日記)

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