2015年10月4日日曜日

京都市美術館「マグリット展」を観て

20世紀を代表するマジック・リアリズムの画家、ルネ・マグリットの大規模な
回顧展です。

約130点で、その不思議な世界を堪能しましたが、正直観終った後、かなりの
疲労感を覚えました。作品は一見明快で曇りなく、その実描かれた内容は
謎に包まれています。直感やイメージで作品の雰囲気を楽しめばいいと心に
言い聞かせながら、ついつい無意識に画中の謎、不条理に込められた
画家の意図を考えてしまって、疲れるのでしょう。それこそ、マグリットの
思うつぼに違いありません。

私は、シュルレアリスムの理念についても詳しくないので、以下、本展を観て
感じたことを、率直に記してみたいと思います。

まず、彼の絵の中の個々の対象が、大変精巧にリアリティーを持って描かれて
いることについて。彼の絵画のように、現実にはあり得ない事柄、光景を描く
場合、その中に配置された個々の対象がリアリティーのあるものでなければ、
その絵はちぐはぐで、破たんしたものになってしまいます。

ところで彼は、画家として自立する以前には、商業デザインを手掛けていたと
いうことなので、その影響も多分にあると思われますが、彼の絵には観る者に
対して、非日常の光景を納得させる訴求力があります。

つまりマグリットの超現実的な絵画は、この画家の個々の事物に対する鋭い
観察眼と、天性の対象把握力、その表現を可能にする画家としての技量に
よって成り立っているということです。

次に、マグリットが画中に表現する謎、不思議は、おそらくどのような方法論に
よっているのかということについて。私なりに少なくとも、その一つの謎を解く
ヒントは、画中画の風景画が周りの風景と溶け合っている作品にありました。

現実の世界では、このようなシチュエーションの絵画の背後には、それによって
隠されている違う光景が広がっているはずであり、前景を切り取り、背後を
白日に晒す、あるいは、切り取ったものをまったく別の画面にはめ込むことに
よって、現実の時間軸をずらしたり、実在しながらも肉眼では見えないものを
眼前に現すことで、人間の感覚、認識がいかにあいまいで、不確かなもので
あるかを、明らかにしようとしたのではないか?

とにかく、自らの認識を超えたところに、彼の絵画の魅力の秘密があると、
私には感じられました。

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