2015年10月26日月曜日

兵庫県立美術館「船越桂 私のスフィンクス展」を観て

船越桂は、私の最も好きな現代彫刻家です。しかし今まで、版画作品には
親しんで来ましたが、木彫作品はあまり目にする機会がありませんでした。
それで今回兵庫県立美術館で、彫刻作品中心の彼の展覧会が開催される
とあって、大きな期待を持って会場に赴いたのです。

ちなみにこの美術館を訪れるのも、私にとっては初めての体験で、海沿いの
ロケーションを活かした、広々としてモダンな堂々とした佇まい。屋外に設置
された、コンクリート製の重厚な螺旋階段が印象的です。展示室もゆったり
としたスペースで、船越の静謐で洗練された彫刻作品の展観にうってつけ
でした。


さて彼の作品のファンであるとはいえ、まとまった数の木彫作品を、しかも
至近距離からじっくりと観るのは初めてということで、悦びも含め様々な
感慨が心に浮かびました。

まず作品の質感、佇まいの気配が、私に働きかけたものについて。船越の
彫刻は、美術雑誌、図録などに掲載された写真で見ていると、一般に
都会的で洒脱、無機的な雰囲気が強調されます。しかしその作品を直に
観てみると、その土台となる楠の肌触りが俄然浮かび上がって来ます。

初期の作品では、温もりを内に秘めた、硬質な外貌のアンバランスの中の
均衡が、何とも言えず魅力的でした。さらに彼の代名詞となった大理石の
玉眼、この遠くを見つめる澄み切った美しい目は、現実と非現実の間を
観遥かしているようです。これも実際に作品に接しなければ、味わえない
美質です。

次に彼の創作活動の進展について。本展では、1980~1990年代初めの
第一期、1990~2000年代初めの第二期、2000~現在の第三期に分けて
展観していますが、彼の創作の深化が手に取るように分かります。

初期の一体の人物像として完結していた作品が、次第に一個の人体内に
収まり切らなくなって異形へと変貌を遂げ、遂には人間の殻を脱ぎ去って
直接宇宙と交歓する宗教的存在となる。

船越の非凡さは、明治の近代化以降、西洋美術の圧倒的な影響力を払拭
出来なかった我が国の彫刻界にあって、その桎梏を易々とすり抜けた
ところにあると、改めて感じさせられました。

0 件のコメント:

コメントを投稿