2015年10月28日水曜日

祇園甲部歌舞練場内八坂倶楽部「フェルメール光の王国展」を観て

フェルメールの残した作品全37点を、リ・クリエイト ー「フェルメール・センター
・デルフト」より提供を受けた画像素材を最新技術によりフェルメールが
描いた当時の色彩を求め、原寸大で鮮やかに再創造ー 作品で一堂に
展観する試みの展覧会です。

まず特筆すべきは、会場が祇園甲部の芸舞妓が毎年都おどりを披露する
ことでおなじみの、歌舞練場内八坂倶楽部ということで、純和風で日本庭園を
有する会場に、17世紀オランダの画家の絵画が一斉に並ぶということです。

しかし会場に入ってみると、木造畳敷きの室内に、展示の工夫もさることながら、
西洋絵画が違和感なくしっくりと溶け込んで、美術館で観るのとは異なる
落ち着きと華やぎを醸し出すようです。

17世紀オランダが交易によって栄え、フェルメールと同時期に活躍した
レンブラントも、版画に日本製の和紙を使用したということなども考え合わせる
と、フェルメール作品が和風の部屋に飾られるということも、絵画鑑賞に
世界史的な背景を加味するという意味でも、面白い試みと感じられました。

本展を監修した生物学者福岡伸一は、フェルメール好きで知られ、この
展覧会と同タイトルの本も上梓していますが、私がその本を読んで大いに心を
啓発されたのは、絵画を科学的な視点で観ることの魅力についてでした。

とりわけ17世紀のオランダが、市民階級の台頭と市井の人々の科学的なもの
への興味の芽生えによって、近代科学への助走期に位置し、絵画と科学的
好奇心が強い結びつきを持っていた時代である故に、観る者を惹きつけて
やまない、しかし謎の多いフェルメールの絵画の秘密を、解き明かすための
説得力のある説明の必須の条件として、科学的な視点が必要だったといえる
でしょう。

このような前提のもとに、本展ではフェルメールが科学的な探求心を持って、
世界の有りのままの情景を一瞬間において捉えようとした画家という解釈に
立って、構成されています。

この解釈にとって重要な要素は、フェルメールの絵画における光の取り扱い方
ということで、その点リ・クリエイト作品は、もちろん実物の存在感からは多分に
劣りますが、制作当時の状態を再現された、経年の曇りを払拭した色彩は、彼が
光の粒子を精巧に表現する手段を獲得して行く過程を、端的に示してくれます。

特に画面上に施された一点の濁りない光の表現が、あたかも魔法でもかけた
かのように画面全体を光り輝かせる様子は、フェルメールの天賦の才を余す
ところなく示しているように感じられました。

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